春の合コン 10
「………………お」
綾さんが偵察に行ってから数分後。カメラの映像を見ていると、春菜達が居る部屋に彼女は現れた
そして、みんなに何かを聞いて回っている
「注文取ってのかな? …………ん?」
急に綾さんがカメラに向かって何か妙な動きをし始めた。あれは一体……
ぱんっと手を叩き、ピースサイン。両手で頭の上に円を描き、見回すような仕草
「…………パンツ、まる見えって、こら!」
何やってんのさ!?
「たく…………うん?」
今度は手招きをしている様な……
「…………来いって事なのか?」
いやしかし……
「うん? また妙な動きを……」
足と手を大の字に広げ、髪を前に尖らせる? そして後ろ向いて尻を突き出し…………??
さっぱり分からん
「…………」
とにかく行ってみるか。春菜達にはバイト中だとでも言っておこう
俺はモニタールームを出て、春菜達が利用している部屋へと向かう
部屋の前には綾さんが居て、俺に軽く手を振っていた
「こっちです、佐藤。話はつけときましたよ」
「はい?」
「さ、どうぞ」
「え、ええ」
良く分からんが、誘導されて部屋に入ると、春菜が超笑顔で俺を迎えた
「兄貴っ!」
「な、なんだ?」
俺の右腕を抱き、ぐいぐいと外へ引っ張る
「早く行こ〜」
「は?」
「私、ブッチャーデパートで、和食バイキングに行きたいぞ!」
「はぁ!?」
「何でも好きな物を食べに連れてってくれるんだろ。なら、あいつらと食いに行く必要ねーし!」
あいつら。圭一や、その仲間達は、唖然とした表情で俺達を見ている。つか、多分俺も同じ表情だろう
「お兄さん!」
その時、加奈ちゃんが立ち上がり、俺に向かって来た
「あ、ご、ごめん。なんか色々と……」
「水臭いですよ、お兄さんたらぁ」
超猫撫で声!?
「も〜いじわるなんだから」
シナを作り、俺に擦り寄って来る加奈ちゃん。一体、何が起きて……
「まさか春菜のお兄さんがぁ、溝口君とお友達だったなんてぇ。加奈、びっくり」
「溝口君?」
「俳優の溝口 文之君ですよぅ。も〜しらばっくれちゃってぇ。つねつねしちゃうぞ!」
「うひゃ!?」
どっかのキャバ嬢みたいな加奈ちゃんに脇腹をつねられ、5のダメージ
「今度紹介してくれるって本当ですかぁ」
目がキラキラしている。後輩に、こんな目で見られるのは初めてかもしれん
「し、しかし紹介ったって、俺は溝口なんか……」
「私の従兄弟です」
綾さんが手を挙げた
「そ、そうなんですか? 凄いですね……」
つくづく底が知れない人だな
「お兄様。加奈、お兄様とデートしたいな。それでぇ、デートしながら溝口君との合コンの段取りなんてしてみたり――」
「ち、ちょっと待ってくれよ! 俺達との合コンは!?」
慌てた圭一が、言う。すると加奈ちゃんはゴミを見るような目で一言
「ごめんなさい、鳴神さん。もう私達、引き上げます。さ、行きましょうお兄様」
ぐい。ぐいい!
春菜より力強く、引っ張られる!
「因みに合コンで相手の名前を呼ばないで、職業や学校名だけを言って解散する場合、『興味あんのはテメェらの肩書だけで、テメェら自身には、はなっから眼中になかったんだよダボが!』と、暗に言っているのと同じ事です」
「凄い悪意ある例え文章ですね」
綾さんに突っ込んでる間にも、ぐいぐい引っ張られ、そのまま店の外に……
「待てよ! 納得行くかよ、こんなの!! 春菜ちゃん、寿司食いに行こうぜ、回んない寿司!」
「け、圭一。もう良いから帰ろうよ〜」
「良くねぇよ! あんな死んだ目をした奴に女取られて納得出来る訳ねぇだろ!!」
こ、この野郎……
「兄貴は死んでなんかないぞ!」
お、春菜。ふふ、後で小遣いやらんとな
「濁ってるだけだ!!」
小遣いやらん
「そうですよ。それに、圭一君でしたっけ? 貴方より、佐藤君の方が千倍魅力あります」
綾さんは俺の側に立ち、妙にエロい手つきで俺の太ももを撫であげた
「ど、何処がだよ。はっきり言って俺の方が、どこをとっても上だし」
「プレイボーイを気取るなら、貴方も聞いた事があるでしょう? 股間に黄金戦士を宿す男の、ペガサスファンタジーを」
いや、無いでしょう
「ま、まさか、あの伝説の!?」
あるんだ
「彼に抱かれた女達はセブンセンシズを覚醒し、快楽の虜となります。かくゆう私も、かつて彼のセックスカリバーに一刀両断されて」
「もう喋らないで〜!」
なんか色々な所に怒られそうだ
「とまぁ、そんな感じでもう諦めて下さい。春菜さんは、貴方には勿体ないです」
「ぐっ!」
「……なあ、兄貴」
「なんだよ」
「なんか、さっきから話が良く分かんねーんだけど?」
「…………とにかく俺と飯食いに行けば良いんだよ、お前は」
「そっか!」
随分大袈裟になったけどさ