春の合コン 8
「やん、マコト君のエッチ」
「…………」
「あ……ダメ。ここじゃ……ね?」
「………………」
「マ、マコトぉ。私、もうだめぇ〜あいた!」
「……宗院さんが綾さんを叩きたくなる気持ち分かりました」
ビリヤードを教え始めて10分。綾さんは何かある度に変な声を出す
そんなに大きな声ではなく、店内には音楽が鳴っている為、特に注目は浴びていないが、非常に恥ずかしい
「雰囲気を盛り上げようと頑張ってみました」
「盛り下がりましたよ」
春菜達も盛り上がってなさそうだな
「……このまま解散になるか?」
「そうはイカのキンカクシ坂東玉三郎ですよ。見てください、彼を」
「本当に母ちゃんと気が合いそうですね……」
呆れつつ綾さんの視線を追うと、やけに爽やかな笑顔でビリヤードを打つ圭一の姿が目に入った
「あれがなにか?」
「良く見て下さい。自然を装っても、笑顔はわざとらしいですし体に力が入り過ぎています。余り上手く進んでないので焦っているんですね」
「うむ〜」
言われてみてもイマイチ分からないが、綾さんが言うのだ、そうなのかもしれない
「私の勘では後、10分ですね。雰囲気に堪えられなくなって引き上げるか、一か八かでカラオケに行くか。後はダーツですが、最初に盛り上がり易いダーツを選ばず、初心者には楽しみづらいビリヤードを選んだ時点で得意ではなさそうです」
「な、なるほど」
さっきからやけに詳しいな。経験者か?
「エロマンガの受け売りですけどね」
「…………」
そんなこんなで10分後
「そ、そろそろカラオケ行っか〜」
「さ、さんせ〜」
綾さんの言う通りになった!
「え〜まだ遊ぶのかよ。もう寿司食って帰りたいんだけど」
「ち、ちょっ、春菜〜」
「は、腹空いてるんだ。此処出前取れるから寿司取ろうか、奢るよ」
「本当か!? サンキュー!」
圭一の言葉に春菜は声を弾ませる
「……やばいな」
春菜の好感度が0から30にアップしたっぽい(70で無警戒になり、100で友達感覚に)
「じゃ、行こうぜ」
圭一は、さりげなく春菜の肩に手を回して誘導する
「ああ!」
明らかに機嫌が良くなった春菜は置かれた手を気にせず、嬉しそうにカラオケへと向かって行った
「……そろそろ止めた方が良いか?」
しかし妹の交遊関係に口出す兄と言うのも如何なものか
「大丈夫ですよ、マコト君。もし本当に大変な事になるようでしたら、必ず私が止めます」
いつもの冗談っぽさが無く、真剣な顔で綾さんは言う
「……ありがとうございます綾さん。でも危ない事はしないで下さいね。そう言うのはアイツの兄貴である俺の仕事ですから」
信じられる。この人は信じられる人だ
俺は綾さんに頷き、感謝を言葉にして伝えた
「……分かりました、マコト君。では、脱いで下さい」
信じられない。この人は信じてはいけない類の人だってのを、すっかり忘れていた
「そ、そんな目で見ないで下さいよ。ちゃんと考えがあるんですから」
「考えですか?」
「はい。実は私、此処の店長さんと知り合いなんですよ。ですので」
そんなこんなで五分後〜
スタッフルームで制服を手に入れた!
「って都合良すぎて何だか恐いですね」
「それで良いんですよ。それでは店長さん、何かありましたら宜しくお願いします」
「相変わらず強引だね、綾ちゃん。ま、いいけどさ。代わりっちゃあれだけど、お父さんに宜しく言っといておくれ」
「はい、分かりました。ではマコト君、着替えていつでも行ける様にスタンバっておきましょう」
「は、はい」
一体何者なんだ、この人は……
「警察官の娘です」
「なるほどって、もう少し引っ張りましょうよ」
つくづくお約束を守らない人だ
「お父さんは私に甘々ですから、私がお願いすれば無実の人でも捕まえてくれます。実際に何……冗談です」
「はぁ、そうですか」
なんか深く聞くのはヤバそうなので、適当に聞き流しつつ更衣室へ
「……着いて来ないで下さいよ」
「お約束ですので」
「…………そのうち逮捕されますよ」
綾さんを更衣室から追い出し、カギを閉める
「…………はぁ」
宗院さんも大変だな