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俺の父兄参観 6

「それでは二時間目の授業を始めます」


教室内の騒ぎは、先生の出現によって取り敢えずは収まった


二時間は国語。教えるのは雪葉の担任で、青山 智史先生だ


雪葉の保護者として、過去に何度か話をした事があるが、細く、優しそうな風貌と、その見た目からは想像出来無い程の熱き教師魂を持った好青年である


「では先ず、前回のおさらいをしようか」


青山先生は穏やかにそう言い、授業を始めた


「猟師の田吾作どんは、ある日いつもの様に家の近くにある山へ、狩りに行きました。しかし、山の持ち主であった兄である村長が破綻し、ローンの担保としてあった山は、別の持ち主へと渡っていたのです。そうとは知らない田吾作どんは、獲物じゃ、獲物じゃと銃を片手に山を走り回りました。そこへ山の持ち主である華族、金田 金太郎氏が、様子を見に来たのです。そうとは知らない田吾作どん。金田氏を獲物と勘違いし、木の狙いを定めます。『半径一キロ内はおらぁの射程距離だべ』そう不敵に言い放つ田吾作どん。さて、この時、田吾作どんは何を考えてたか、分かる人」


「はい!」


教室にいるほぼ全員の子供達が手を挙げる。窓側から二列目の前から三番目にいる雪葉もまた、手を挙げていた


「今日はみんな張り切ってるね。う〜ん、誰に答えて貰おうかな」


雪葉にしろ〜、雪葉にしろ〜


「よし、じゃあ霧島!」


「はい」


花梨か。ま、応援してやろう


「花梨ちゃ〜ん、頑張って〜!」


俺がするまでも無く、香苗さんは運動会を見に来た母親の様に、大声で応援した。

 その応援に花梨はビクッと身体を震わせたが、振り返らない。どうやら無視する方向らしい


「恭介クン、花梨ちゃん凛々しくてカッコイイでしょ? 花梨ちゃんにはずっと苦労させてばかりだったから、幸せになって欲しいんだ。お願いね恭介クン」


「ち、ちょっママ!!」


無視失敗


「き、霧島のお母さん、もう少し抑えて見学して頂けると、僕、助かってしまうな〜なんて……」


「あ、そうだね、ごめんなさい。花梨ちゃん、ママ、陰ながら応援するからね!」


「はぁ……田吾作どんが考えていた事は――」


それから授業は、つつがなく進み、休み時間となる


授業の内容は、分かりやすいのは勿論、時折冗談なんかも交えたりして、退屈さを感じさせないものだった


「ふ、暫く見ない内に、あの新米教師、立派になりおったわ」


「私達主婦の間でも評価高いわよ〜」


「うん。顔も良いし、一度デートしてみたい相手かも。あ、恭介クンともしたいな。再来週の日曜日、時間あるかな?」


香苗さんは、ニコッと笑いかけながら、俺を覗き込む様に言った。胸元がきついのか、幾つかシャツのボタンを外してあるため、少し谷間が見えてしまう


「う! あ、い、いや、それはその……コホン!」


俺は視線を逸らし、毅然とした態度で言う


「ぼ、僕達はまだ、知り合いになられたばかりでござりまするし、そ、そう言う事はもっとお互いを知ってからなんて思うのです!」


俺の男らしい言葉に、香苗さんは呆気に取られた顔をし、怒らせてしまったのか、プルプルと震えた


「……あ、あの、決して嫌とかそういう事じゃなくて」


「……いい」


「え?」


「かわい〜!!」


「ふげっ!?」


抱きしめられた!?


「花梨ちゃんが選んだ男の子だから、いい子だって言うのは分かっていたけど、想像以上に可愛いんだもん。ママ、嬉しーな」


ぎゅ、ぎゅーっと顔に押し付けられる乳! 柔らかく、ほのかに甘い香りがする


「む……むぐぐう」


こ、これはマズイ、このままでは俺の内なる獣が暴れてだしてしまう!!


「ぶはっ! お止め下さい、香苗さん!!」


「嫌だった? ごめんね」


乳は、あっさりと離れてしまった。……これで良かったのか? 俺は自分の心を偽っただけじゃないのか?


「ママ!」


「うわ!?」


花梨が怒りの形相で迫って来た


「どーしたの? 花梨ちゃん」


「どうしたのじゃ無いわよ! 恥ずかしい事しないでよね!!」


「恥ずかしい事?」


「応援とか、あ、あたしをソイツに任せるとか!」


ビシっと俺を指差す花梨。なんとも失礼な、お子さんだ


「だ、だってママ、身体弱いし、多分そんなに長生き出来ないもん。だからママが居なくなった後に花梨ちゃんを任せられる男の子に会えて、嬉しかったんだもん」


香苗さんは、いじけた子供の様に花梨の顔色を伺いながら言った


「……ママは長生きするわよ。て言うかしなさい!!」


「は、はい!」


「だから、コイツに任せるとか言わなくて良いから。大体、こんな奴に任せる程、あたしって頼り無い?」


こ、このガキ……


「ううん、花梨ちゃんは頼りがいあるよ! 恭介クンなんかよりも、よっぽど!」


こ、このアマ……


「でしょう? だから心配要らないわよ。……あたしより自分の身体の事を心配しなさい」


「花梨ちゃん……うん!」


「…………うむ〜」


花梨の方が親っぽいな


「香苗ちゃんは、いっつも子供を、特に花梨ちゃんの事を心配しているのよ〜。子供を心配しない親なんて居ないけど、香苗ちゃんは自分の身体の事があるから特にね」


母ちゃんは、二人を優しい眼差しで見つめている


「……ま、子供の方も負けないぐらい、親を心配しているものだけどな」


事情は分からないが、早く健康になって欲しいものだ


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