俺の父兄参観 4
雪葉達がどっかへ着替えに行き、他に知り合いも居ない教室内
変質者扱いを免れたとは言え、変に注目を浴びてしまった今、非常に居づらい。だが愛する妹の為だ、俺は堪えてみせる!
ヒソヒソ
「…………」
た、堪えてみせるぞ!
ヒソヒソ、ヒソヒソ
「………………」
た、耐えて……
「ふふ」
俺に対する奥様方のヒソヒソ話に、心くじけそうになった時、一陣の風が吹いた
その風は強く、しかしどこか切なく甘い夏の風。この風は
「やあ、お兄さん。父兄参観に来たのかな?」
「風子!」
風子は既に着替え終わっていて、その格好はジーパンと無地のシャツに帽子と言う、何とも男の子っぽい格好だった
「もう着替えたのか? 速いな〜」
見知った顔の登場に、ホッとしながら聞くと、風子は僅かに躊躇した後
「今日はちょっと体調が悪くてね。二人で保健室に行っていたんだ」
と、言った
「体調が? 大丈夫なのか?」
「うん、心配はいらないよ」
「そうか……大事にしろよ」
風子は、心配要らないと言ったが、少し顔色が悪い
「優しいね、お兄さん。今日のように体調が悪い日に、そうやって優しくされたら僕、甘えてしまうよ?」
「おう、甘えろ、甘えろガキんちょは素直に甘えてるのが一番だ」
「……お兄さんは優しいし素敵だど思うけど、やっぱりもう少し勉強した方が良いね」
「へ?」
「ふふ。でも、それがお兄さんだね」
風子は、子をあやす母親のように穏やかな眼差しで、俺を見つめる
「……俺って風子より年上だよな?」
何か明らかに俺の方がガキっぽいような……
「とても残念だけどね。ところで……早く教室に入っておいで、宮」
「ひっ!?」
風子が廊下の方へ声を掛けると、短い悲鳴が聞こえた。この声は……
「……鳥里さん?」
「ぁ……ぅ…………」
名前を呼ぶと、鳥里さんは諦めたようにオドオドと教室へ入って来た。どうやら相変わらず嫌われているらしい
「こんにちは、鳥里さん」
「は、はぃ……こんにち……は」
鳥里さんは蚊が鳴くような小声で返事をした後、鳥里さんのだと思われる席へ、そそくさと行ってしまった
「ごめんね、お兄さん。どうしてか宮は少しだけお兄さんの事が苦手らしいんだ」
「誰にでも苦手な奴はいるし、気にしてないぞ」
夏紀姉ちゃんとか夏紀姉ちゃんとか夏紀姉ちゃんとか
「ありがとう、お兄さん」
「礼を言われる事じゃないよ。ん?」
廊下が騒がしくなって来た。雪葉達が着替えて来たのだろう
「無理しなくて良かったのにママ」
「花梨ちゃんの授業参観だもん。ママ、絶対行きたかったんだもん!」
「…………」
な、なんだこのエロさと子供っぽさを兼ね備えた声は
「お母さんも忙しかったんでしょ? それなのに……」
「子供の授業参観だもの〜、少しぐらい忙しくても行くわよ〜。もっとも、教えてくれなければ行けないけど〜。…………ねぇ、恭介?」
廊下から姿を現わしたノンビリ口調の奥様は、ギラギラ光る目で俺を睨みつけて下さいました
「か、母ちゃん……」
「この間、貴方の学校で授業見学会があったそうね〜。さっきお友達に聞いて、母さん驚いちゃったわ〜」
ゆらり、ゆらりと俺の元へ向かって来る母ちゃん。妖怪より恐ろしい
「あ、い、いや、い、忙しいかなって……あ、あはははは」
「忙しくても子供の学校行事ぐらいは行くわよ〜」
口調は相変わらずノンビリだが、母ちゃんの目は見開いたままだ!
「ご、ごめ……おっ! か、母ちゃん、そのグレーのスーツ似合ってるね〜。キ、キャリアウーマンみたいだぜ!」
「恭介〜」
「ひ、ひぇ〜ご、ごめんよ〜」
梅干しを覚悟して目を閉じると、母ちゃんの手はコメカミではなく、俺の頬に触れた
「……母ちゃん?」
「貴方は母さんに気を使い過ぎよ。子供に気を使われるのは、嬉しいけれど、少し悲しいわ」
母ちゃんは寂しげに微笑みながら、そう言った
「…………」
「もっと我が儘を言って、もっと母さんを困らせなさい。そうじゃないと貴方が独り立ちして家を出た後、何もしてあげられなかったなって、後悔しちゃうもの」
「母ちゃん……」
そんな事無いよ、母ちゃん。母ちゃんはいつも優しく俺を見守っ……
「か、母ちゃん?」
その強く固めた両拳は何ですか?
「それはともかく〜」
「あ、あの」
「悪い子には〜」
「ち、ちょ、み、みんなが見て」
「おしおき〜」
「や、やめ……ぎ、ぎゃああああああああ!!」