第101話:父の旅立ち
光と闇の戦いは、一瞬で決着が付いた
しかしその一瞬は星の運命を決する一瞬であり、人間が築き上げて来た歴史に等しい価値を持つ
「……ふふふ、あはは、あーっはっはっは!」
光は潰え、村は完全なる闇に染まる。響くのは高々と笑う岡魔の声のみ
決着は付いたのだ
「終わったか……」
ウリガドは諦めの吐息と共に呟いた
もう、闇を、岡魔を止められる者は居ない。世界は暗黒に包まれるだろう
「……すまぬのう、サトウよ。関係の無いお主に全てを押し付け、お主を死なせてしもうた……。ワシこそが死ぬべき者じゃったのに」
何故ワシに聖剣は応えてくれなかった。何故ワシはオルテガを……弟を止められなかった
力無くひざまづくウリガド。その表情に希望は無く、酷く老け込んで見える
「……おじいちゃん」
「エ、エルテル!?」
さらわれた時のショックで、意識がなかったエルテルが、今になって目覚めてしまう。
これから世界は滅びの道を行くと言うのに……
なんと不憫な子だろう
ウリガドはヨロヨロと立ち上がり、エルテルの身体を抱きしめる。せめて一人では死なさぬ様に
「…………きれい」
そんな時、エルテルが呟いた。純粋に、ただただ純粋に
「きれいだね、おじいちゃん」
「ど、どうしたと言うのじゃエルテル? 何が綺麗だと…………雪?」
ウリガドが若き頃、北へ旅をした時に一度だけ雪を見た事がある。
夕日に反射して美しく光る黄金色の雪を
その雪が、闇の中ふわふわと舞い落ちた
「こ、これは……」
違う、雪ではない。雪は完全なる闇の中では光を失ってしまう
そして何よりも違う事がある。この雪は……
「……暖かい」
これはいったい?
「光……。これはサトウの想い。心の光だよ」
「サトウの……心」
ああ、そうだ。優しく、純粋で、しかし力強い
これはあの男の、サトウの光!
「あはははははははははは!!」
「っ! オルテガ!!」
しかし、しかし生き残っているのは高笑いをするオルテガ。
ではこれは、サトウと聖剣が砕けた事を示す最後の輝きか
「く……サトウよ。お主の意志、ワシが受け取った」
足掻こう。この光に、サトウの想いに応える為に最後の瞬間まで足掻こう
ウリガドは覚悟を決め、闇を睨む。
だがその時、闇は高笑いを止め、静かに呟いた
「…………見事だ、サトウよ」
ピシ
水に張った氷が割れた様な音。その音は次第に大きくなってゆく
「こ、これは!?」
そしてウリガドは見た。全てを包む闇、それがゆっくりと裂けてゆくのを
「お帰りなさい……サトウ」
そして男は伝説となる
エピローグ
「どうしても行っちゃうの?」
少女は尋ねる。優しく、強い男を見上げながら
「うん。家族を待たせてあるからね」
男は少女を見つめる。父親のような優しい眼差で
「残念じゃのう。お主なら村長の座を今すぐにでも譲るのに」
老人は思う。この男、逞しく、そして偉大な男になったと
「この村に一番相応しい村長は貴方ですよ、ウリガドさん」
「ふぉ、ふぉ。まだこの年寄りに働かせるか」
「貴方は、まだまだお若いですよ」
笑い合う二人。二人の間には年齢、人種を越えた友情が芽生えていた
「…………ありがとう。ワシにはその陳腐な言葉しか言えぬ」
「その言葉は、僕にとって最高の宝物です。
……来て良かった。アマゾンに来て、本当に良かった」
ガシッと、互いの手を握り合う。この握手こそが二人の、二人だけの宝なのだ
「…………」
握手を終え、男は村の先を見る
「…………行くのか?」
「はい。……エルテル、色々とありがとう。君が助けてくれなければ、僕は死んでいた」
「ううん……ううん!」
エルテルと呼ばれた少女は、サファイアのような瞳に、涙をいっぱい溜めて首を振る。
そして勇者を見送る為、最上の微笑みを浮かべて言った
「カラムーチョ、スッパムーチョ、マカダミアカルビー(ありがとう、勇者様。貴方に幸せが訪れる事を、ずっと、ずっと願っています)」
第一章
【アマゾンの秘宝】
完
~時は流れて~
百三十年後のアマゾン。そこには全ての村を統一し、発展させた偉大なる女性大長老が存在した
その大長老は、多くの者に感謝され、多くの尊敬、羨望を集めていた。
しかし、老婆は言うのだ。村があるのも、私が生きているのも全て勇者様のお陰だと
そして老婆は目を閉じ、祈る。百三十年間、一日も欠かさなかった祈りを
「…………今は幸せですか? 幸せでしたか、勇者様」
今でも明確に浮かび上がる、男の姿。譲り受けた聖剣を背に、力強く歩む男の姿
その男の名はサトウ。黄金の勇者、サトウである
今日の長生き
エ>>>>>>>父
つづ……いて良いのだろうか?