俺の夢 4
次でいよいよ百話! 読んで下さった皆様、ありがとうございました!!
「姉ちゃん、起きな」
「うぃ〜」
夏紀姉ちゃんの肩をゆさゆさを揺さぶるが、起きやしない
「起きなよ、風邪引くって」
「う〜うるさい〜。むにゃむにゃ……くしゅん!」
「……たく」
俺は姉ちゃんの腋の下に手を回し、軽く持ち上げる
「ほら、部屋に行くよ」
「うひゃひゃひゃ!」
「早く立て〜」
「う〜、……ひっく」
渋々と起き上がる姉ちゃん
「はい、良く起きました。じゃあ部屋に行こう」
「うぃ〜」
ハルク・ホーガンの様な雄叫びとポーズをする姉の肩に手を回し、よたよた歩きの姉と共に俺はリビングを後にする
「アタシは酔ってないわよ〜」
「ね、姉ちゃん、みんな寝てるから……」
「酔っても無いのに酔っぱらい。これいかに。イカ煮。蟹。……蟹、食べたい」
「…………」
嫌だねぇ、酔っぱらいは
「あ、今、酒臭くて乱暴な馬鹿姉だって思ったわね〜!」
「うん。あ、い、いや、そんな事無いって! いつも尊敬してるって!」
「嘘つけ〜」
「ほ、本当だよ本当! 最高の姉で最高!!」
「最高ですか!」
「お、お〜」
「最高!」
「い、イエス!」
「……嘘つき」
「へ?」
「嘘つき、嘘つき、嘘つき〜」
「ち、ちょ、階段で暴れないで! 危ないから!」
それから幾度のデットオアライブを繰り返し、何とか連れて来た姉ちゃんの部屋。
姉ちゃんをベットに転がし、俺は力尽きる
「ハァハァハァ……疲れた」
「偉大な姉を運んで疲れただぁ? そんな軟弱な弟をアタシは持った覚えないわよ!」
むかりんこ!
「す、すみませんねぇ! どうせ俺は馬鹿で軟弱で弟失格なアホでございますよ!」
もう知らん! 風邪でもひけってんだ!!
俺は部屋を出ようと、ドアに向かう
「な、何よ〜、そんなに怒る事ないじゃない」
急にテンションが低くなった。酔いどれレベル3ぐらいか?
「ちょっと喝を入れただけなのに……」
ちょっと? 喝? どういう感覚してるんだこの姉
呆れた顔で見ていると、夏紀姉ちゃんは弱気な表情をし、
「……謝れば許してくれる?」
と言った!?
「え? ええ!? えええええ〜!!!」
傍若無人で、魔王の一人で、地獄の酒飲みの異名を持ち、悪魔的ドSの称号をもった、天上天下唯我独尊の夏紀姉ちゃんが俺に謝るぅうううう!?
「……ごめんなさい」
「イャアアアア! 何かとり憑いてるぅう!!」
おんきりきり、おんきりきり
「謝ったって事で、遠慮なく命令」
「んじゃ、俺、もう寝るから」
やっぱ何も、とり憑いてないや。普通の夏紀姉ちゃんだぜ
「アタシが寝るまで側に居なさい」
「…………は?」
なんじゃそりゃ
「返事は?」
「……はい」
パブロフの犬の様に、条件反射で頷いてしまう
「じゃ、電気を消しなさい」
「……はい」
俺は電気を消し、ベットの横にある一人掛け用ソファーに腰を下ろす
「…………はぁ」
真っ暗な部屋。ため息を付くと、悲しくなる
カチコチ、カチコチ。カチコチ、カチコチ
時計の針音が、切なく響く
カチコチ、カチコチ。カチコチ、カチコチ
で、三十分
そろそろ寝たかな〜
「…………ねぇ」
まだ起きてたのかよ!
「な、なに?」
「こうやって一緒に時計の音を聞くのは久しぶりね」
「ん? ……ああ、あの時か」
夏紀姉ちゃんが高校生の頃、とても辛い事があった。
その時の俺は何も出来ず、夏紀姉ちゃんの側で一晩中、一緒に時計の音を聞く事しか出来なかった
「……そんな事もあったな」
夏紀姉ちゃんは結局、泣かなかった。きっと自分の弱さを認めたくなかったから、認めたら強い姉で居られないと思ったからだ
あの時程、俺は自分が情けないと思った事はない
「…………」
「……恭介。アンタが生まれた時、正直言うとアタシは嫌だなって思ってた。アタシには可愛くてしっかり者の、ちょっと恐い妹がいたし、弟なんて欲しく無かったし」
凹んでるってのに、いきなり酷い事実を言いやがるな、この姉
「でも、アンタは凄く優しくて、凄く強くて、凄く素敵な男の子だった。誤算だったわ、この夏紀様が一人の男に落とされるなんてね」
落とすって……
「アタシはアンタを守って来た、面倒見てきた」
「……ああ、そうだね。感謝してるよ」
本当に感謝している
「……ううん。実際は逆よ。アタシに辛い時が有った時も、変態ロリコン糞野郎に襲われた時も、悲しい時もアンタはいつもアタシの側に居て、アタシを守ってくれた。……うん、分かってる」
「姉ちゃん……」
違うよ。俺はただ、姉ちゃんの側に居たかっただけなんだ。
ずっと姉ちゃんに憧れてたから、姉ちゃんの笑顔が大好きだったから……
「今なら言えるよ、恭介」
夏紀姉ちゃんはベットから手を伸ばし、俺の手をギュっと握る
昔、俺が誰よりも憧れていた人。誰よりも強くて優しかった、俺のヒーロー
「生まれてきてくれて、ありがとう。ずっとアタシを守ってくれて、ありがとう。……大好きよ、恭ちゃん」
「……姉ちゃん」
ありがとう、姉ちゃん
「ところで……」
「ん?」
「……ぎもぢわるい」
「え!?」
「うぅぐ……うぃ〜」
「や、止め」
「も、う駄…………ゲ」
ギャアアアアア
「アアアアア……あ?」
気付くと、そこは夏紀姉ちゃんの部屋では無く、俺の部屋だった
「…………ゆ、夢?」
壁時計を見ると、針は午前六時を指す
「………………」
なんだか色々な夢を見ていたような……。とにかく、なんか凄く疲れた
「……顔洗お」
ベットから起き上がり、俺はドアを開ける
「あ!」
「いっ!」
「う!?」
「え?」
「…………おはよう」
廊下では、ちょうど鉢合わせになったのか姉妹達全員が揃っていて、廊下で洗面所の順番待ちをしていた
「お兄ちゃん!」
二番目に並んでいた雪葉が、俺の目の前に来る
「ど、どした?」
「お兄ちゃんの雪葉は雪葉だけだよね!」
「へ?」
「姉……あ、兄貴!」
春菜も並ぶのを止めて俺に近付き、突然俺の胸をぺたぺた触ってきた。てか姉?
「な、なんだよ?」
「胸は……無いよな。はぁ、良かったぁ」
「はぁ?」
「…………」
秋姉は俺をジっと見ている
「あ、秋姉?」
「秋兄…………にやり」
「ひぃ!?」
良く分からんが、目茶苦茶嫌だ!!
「あれは夢、あれは夢、あれは夢、あれは夢、あれは夢」
夏紀姉ちゃんは虚ろな目でブツブツと独り言を言っている。なんか恐い
「ど、どうしたのさ、みんな」
「な、何でもないよ、お兄ちゃん!」
「そ、そう、何でもないって、兄貴!」
「シスコンが!」
「シ、シスコンって……」
なんでいきなり罵倒を……てか、本当にどうしたんだ?
「…………恭介」
「秋姉?」
疑問に思っていると、秋姉は任せてっと言った風に頷いて
「……ちゃんちゃん」
オチを付けて下さいました
今日の悪夢
夏>>>俺>>雪>春>>>>>>秋
「でも秋兄…………ちょっとあり?」
「無い無い、ぜっっったいに無いよ〜!!」
つづたまれ