第98話:徳のクッキー
「私、徳永 綾音。女子高生で花の17歳!
知り合いの冴えないオッサンが此処で働いていると言うから、からかい半分で来てみたらなんと私も働く事に!? びっくり!
そこでは意地悪な先輩のイジメや上司のセクハラ、そして望まぬコスプレを強要され、私の心はもうズタズタ。もう辞めたいな、田舎に帰ってばっちゃんと畑でもやりたいな……。
そうだ、今日働いたら辞表を出そう。そしてパワハラで訴えて慰謝料を勝ち取ろう。そう自分を慰めて、最後の仕事に出る私。ああ、今日も私はお客様に卑猥な言葉を言わされてしまうのだわ。恥辱と微かな興奮、昏く疼く肉の喜びに身を震わせながら私は、最後のお客になるだろう兄妹へ食事を届けたのでした……。
そしたらなんと、なんとなんと! お客様に嫁に来いなんてプロポーズされちゃったの!? これからどうなるの私の運命!」
「食べ終わったか、雪葉?」
「うん! ご馳走様でした」
「ああ、ご馳走様。店員さん、お会計お願いします」
俺は、俺に出来うる最上級の爽やかな笑顔で、綾さんにそう言った
「…………。流石に私も恥ずかしんですよ? 980円です」
「なら、やらなければ良いのに……はい1000円。お釣りは、うまか棒でもお食べ下さい」
ガックリと肩を落とす綾さんに千円札を渡し、俺と雪葉は店を出るのであった
「お兄ちゃんのお友達って……元気な人だね」
店を出て少し歩いた頃、雪葉は俺を見上げてそう呟く
「……雪葉は本当にいい子だなぁ」
思わず頭を撫でてしまう
「…………えへ」
「ふふ。さ、次は何を見に行こうか?」
「カバさん!」
あれ? この子、カバ好き?
「カ、カバね。カバは……お、あそこに掃除をしている人が居る。聴いてみよう」
俺達は黄色い作業着を着て、鼻唄を歌いながら道を掃き掃除している男性に近寄り、声をかける
「すみません」
「はい、なんでしょう」
振り返ったその人は
「宗院さん!?」
「おや、またお会いしましたね。奇遇だ」
「奇遇っていうか……」
この動物園、他に人居ないのだろうか?
「それで、どうかしましたか?」
「あ、えっと……カバってどちらにいます?」
「カバですか。カバはあちらにありますライオンの檻の前を右に曲がると見える、フラミンゴ園の先にいらっしゃいます」
「あ、そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ。ではまた」
そう言って宗院さんは、掃除を再開する。その後ろ姿と鼻唄に哀愁を感じてしまう
「……頑張れ、スペシャルアドバイザー」