院の動物園 3
「……長いな」
「長いね〜」
象の次に見に来たキリン。見ている客は俺達二人だけだ
と言うか先程からマジで客が見当たらない。
明らかに人間より動物の方が多そうなのだが、本当に経営は大丈夫なのだろうか
「キリンさんはどうしてあんなに首が長いんだろ?」
キリンを見上げたまま、雪葉はポツリと呟く
「ん? う〜ん、なんでもキリンの祖先は他の動物に較べて餌を採るのが下手だったらしくて、生存率が低かったそうなんだ。
そこでキリンは、他の動物が食べようとしない高い所にある葉っぱを狙う様になり、何代も世代を重ねて少しずつ長くなったそうだ。ま、絵本の受け売りだけどな」
「へぇ〜。キリンさんは凄く努力したんだね!」
「ダーウィンの進化論って奴だな」
「ダーウィンの進化論?」
「うん。首の長いキリンは、首の短いキリンよりも有利だ。それは餌取りの事だけでは無く、天敵に対して身を守り易くなるからだ。
首の短いキリンは身体も大きくなれず、天敵に食べられたり、餌が取れなかったりで絶滅し、長い種類のキリンだけが生き残これた。
そして生き残った首の長いキリンは、少しずつより首を長くしてゆき、今のキリンが産まれていった……そんな感じかな」
「ええ、そんな感じです。ただし、その説を立証するには首の短いキリンと長いキリン、その中間、進化している最中のキリンの化石か骨が見付からなくてはなりません」
「その言い方だとまだ化石は見付かっていないのですね、と言うか、いつ俺の横に来たんです?」
いつの間に現れたのか、バケツを持った宗院さんが俺の右横に立ってキリンを見上げていた
「はい、進化途中と見られる化石はまだ見付かっておりません。ちなみに『何代も世代を重ねて』の辺りから居ました」
「成る程。ではキリンの進化は一斉に突然起きた、と考えた方が自然なのですかね? しかし作業着似合ってますね。バイトですか?」
「シンクロニシティ。ある日、今まで無かった事柄が、一斉にあちこちで起こる奇跡。
そのような奇跡がキリン達に有った。そう思う事はロマンチシズム過ぎますかね。それとバイトには先週から来ています。徳永は今日だけのアルバイトですが、給料は何故か私の方がかなり低いです。何故でしょう?」
「ロマンを無くした人生は寂しいですよ。俺はそう言うの、嫌いじゃありません。給料の件は、園長さんに相談して下さい」
オッサンと美女では差が出るのも仕方ないとは思うけど
「ロマンも良いですが、今はマロンが欲しいですねぇ」
ぐ〜、と宗院さんの腹が鳴り、宗院はバケツに入っている果物を見た
「……腹壊しますよ」
「いや、食べませんよ? ははははは」
目が泳いでいるが指摘しないであげよう
「では私はキリンに餌をあげてきます。またお会いしましょう」
「いや、そう何度も会わなくても……」
「それでは」
そして宗院さんは颯爽と去っていった
「……他に従業員居ないのかな?」
「…………」
雪葉は何かを言いたそうな顔で、俺を見上げている
「ん? …………そろそろ昼だな、何か食べようか」
「あ……うん!」