第16話:夏の一日
AM 00:25 帰宅
「今、帰ったぞ〜」
玄関から夏紀姉ちゃんの声がした。この声からしてベロンベロンに酔っ払ってる様だ
「なんだよ〜誰もいないのかよ〜さみしいじゃないかよ〜」
……うるせー
仕方ないので俺は玄関へ行く事にした
「うるさいぞ、夏紀姉ちゃん。夜中なんだから静かにしろよ」
夏紀姉ちゃんは玄関で座り込んでいる
「たく、下着見えるぞ」
「あ〜こいつスケベ! あひゃひゃはは。このシスコン野郎め!」
殴りたい
「いいからほら、部屋行くぞ部屋」
「へや? 部屋ヤダー此処で寝るんだい!!」
「馬鹿、風邪引くって」
「ヤダヤダー! 此処で寝る〜」
こうしていてもラチがあかない。俺は夏紀姉ちゃんを横抱きで担ぎ、部屋へ連れて行く事にしたが……
「重っ!?」
めちゃくちゃ重っ!!
「重くない〜! えい!」
夏紀姉ちゃんは俺の首に腕を巻き付け、体重をかけてくる
「ぐ、な、なにを……」
「イジワル言う弟なんか嫌い!」
「ぐぇ!」
俺は膝を落とし、夏紀姉ちゃんを離そうとしたが、夏紀姉ちゃんは俺にしがみついて離れない
「し、死ぬ、俺死ぬ!」
「大丈夫よ〜」
「うげぇ」
苦しさから仰向けに倒れた俺に、夏紀姉ちゃんは直ぐに反応し即座にマウントポジションを取った
「あんたはグレイシー一族かよ!」
「あんた、昔姉ちゃんの事が大好きだったわよね〜。お姉ちゃん、お姉ちゃんってそれこそウザいぐらいにさ。でも今はアキにばっか頼るのよね〜」
「そ、そんな事は無いですよ? 夏紀お姉様」
「お姉ちゃん、ちょっとさみしいな〜。……だからぁ」
夏紀姉ちゃんは俺に顔を寄せて来る。こ、このパターンは!
「今日はこのまま寝る!」
夏紀姉ちゃんは俺を下敷きにしたまま目を閉じた
「じ、冗談じゃないよ! 俺まで風邪引くよ!!」
逃げようともがいても、相変わらずガッチリと固めれていて、脱出出来ない!
「た、助けて……」
AM 06:08 起床
うぅ〜。うぅ寒いよぅ、重いよぅ……
「……ん、うぅん……う?………なっ!?」
「うぅ、うぅ助けて、助けて」
「な、何をしてるのよ!」
「………ん? はっ!?」
朝か! 体が痛い!!
「……ついに此処まで落ちぶれるなんてね。姉ちゃん流石にショックだわ」
「はい?」
「姉の寝床に夜ばいするなんて……もうあたしの手に負えない。……明日、精神科の病院へ行こう? 大丈夫よ、シスコンは病気じゃない。ちょっと心が迷っているだけだから」
「ふざけるな!!」
AM 07:35 朝食
朝食はソーセージとベーコン、それと目玉焼きにみそ汁、ご飯だ
「いや〜今朝は驚いたわ」
テーブルを挟んで俺の正面に座っている夏紀姉ちゃんが苦笑い混じりに言う
「………けっ!」
もう二度玄関へ出迎えてやるものか!
「ほら、拗ねない。男らしく無いわよ」
そう言って夏紀姉ちゃんは俺にソーセージを一本くれた
「お~ありがとう!」
まぁ、許してやるか
「あ、雪葉、醤油取ってくれるか?」
夏紀姉ちゃんの左隣に座っている雪葉の側にある醤油
俺からはちょっと遠い
「うん、おにーちゃん。はい、おしょーゆ」
「サンキュー」
「えへー」
相変わらず雪葉はいい子だ
「……雪、ソース取って貰っていい?」
「はい」
「ありがとう、雪」
「うん」
「…………え?」
夏紀姉ちゃんは首を傾げながらソースをかけている
どうしたんだろ?
「……うわ!」
夏紀姉ちゃんを見ていたらみそ汁を零してしまった!
「あちゃー」
「…………ん」
ふきんを探していたら、隣に座っている秋姉が立ち上がり、テーブルや床を拭いてくれた
「い、いいよ、自分でやるよ」
「…………大丈夫」
「あ、ありがとう」
秋姉はいい人だ
「…………きゃ!」
「ん?」
夏紀姉ちゃん?
「牛乳零しちゃった!」
「…………はい」
秋姉は夏紀姉ちゃんにふきんを渡し、椅子に座り直す
「…………あれ?」
夏紀姉ちゃんは首を傾げながら拭いている
どうしたんだろ
「兄貴、スキあり!!」
「おっと、どっこいカウンター」
テーブルの上座に座っている春菜が、俺のソーセージを狙って来たが、皿をかわし逆にベーコンを頂く
「あ〜ちくしょ〜」
「……春菜、スキありよ!」
突然、夏紀姉ちゃんが春菜のソーセージを盗む
「え?……ああ、うん……足りなかったのか?」
「………あれぇ??」
夏紀姉ちゃんは首を傾げながらソーセージを食べた
「なんだよ、さっきから」
俺は夏紀姉ちゃんに聞いてみる
「いやその、ちょっと態度が違うような……よそよそしいって言うか……」
「それはね〜」
キッチンにいた母ちゃんが夏紀姉ちゃんの後ろに立つ
「あなたが、朝、滅多にみんなとご飯食べないからでしょう?」
母ちゃんの細目が光った!
「ご、ごめんなさい。もっと早く起きる努力します……」
AM 07:55
「じゃ、行ってきます」
夏紀姉ちゃんは車に乗って、大学へと行った
「夏紀姉ちゃんも、たまには早く行くんだな」
「夏姉、単位がヤバいらしいぜ」
「よくあれでいい点取れるよな」
夏紀姉ちゃんは大学でもトップレベルの成績を取ってくる
大学では七不思議の一つに数えられているらしい
「兄貴も頑張れよ」
「お前、人の事、言えないだろ……」