院の動物園 2
「……長いな」
「長いね〜」
客が殆ど居ない動物園。経営が心配になりつつ、象がいるフロアにやって来た俺達
象は始め、建物の影でしゃがんで休んでいたが、俺達の姿を確認すると怠そうに立ち上がり、柵の近くへと来て鼻を左右にぶらつかせた。サービス誠心が旺盛な象だ
「しかし大きいな」
「お兄ちゃんの象さんとどっちが大きい?」
「そりゃ俺ってうぉおいい!?」
雪葉を真似たらしい声に振り返ると、後ろにはいつ来たのか青い作業着姿の綾さんが居た
「お兄ちゃんの見えっ張りっ♪」
綾さんは舌を軽く出し、ウィンクをする
「お兄ちゃんの……象さん?」
「なんでもない、なんでもない!」
「その立派な象さんを想像し、私は夜な夜な」
ガシッ!
綾さんの頬をアイアンクロー!
「いい加減に〜! し・て・く・だ・さ・い!!」
「あう〜あうあ〜」
「分かりましたか!?」
「ひうひう」
コクコク頷く綾さんを解放
「ひぅ〜」
「全く!」
「象さんで……夜な夜な?」
「なんでもない、なんでもないぞ〜!」
首を傾げる雪葉に、必死のごまかし
「は〜痛かった。ではリンゴどうぞ」
「唐突過ぎません!?」
「象さんにあげてみて下さい。喜びますよ〜」
そう言って綾さんは、俺と雪葉にリンゴを一個づつ手渡す
「あ、成る程。ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「いえいえ。ではまたお会いしましょう」
綾さんはヒラヒラと手を振って、いずこかへ去っていった
「……素直にリンゴだけを渡してくれれば、普通に良い人なんだけどな」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! 象さんにリンゴをあげてみて良い?」
「ああ、勿論……と、言いたい所だが危なくないのかな?」
普通、従業員か何かが側にいるのでは?
「はい、はい、リンゴですね。ちょっとお待ち下さい」
奥にある建物から、やっぱり青い作業着姿の宗院さんが、デッキブラシを持って現れた
「はい、花子さん。リンゴの時間ですよ」
ぱおっと短く鳴き、宗院さんの誘導の元、柵の外側に居る俺達へ鼻を伸ばす花子さん
「ぞ、象さん。リンゴだよ〜」
雪葉が恐る恐るリンゴを差し出すと、花子さんはひょいとリンゴを鼻で掴み、器用に口へ運んだ
「うわぁ、うわぁ〜!」
雪葉は大はしゃぎ
「花子さん、凄〜い!」
「ふふ。ほら、兄ちゃんのリンゴもあげてみな」
「良いの!?」
「ああ、どうぞ」
「ありがとう!」
ふ。この笑顔が明日への活力さって随分と親父臭くないか俺?