雪のお仕事 3
第二試合
【料理対決】
「お母さん助かっちゃう~」
そんな母ちゃんの喜びの声で始まった第二試合。雪葉と春菜の二人が料理を作り、どちらの方が美味しいかを競う
「材料は好きに使ってね~。それじゃ~行って来ま~す」
俺達の昼飯を作る必要が無くなり、母ちゃんは上機嫌でスーパーへ買い物に向かった
「さて、腹ぺこな俺に料理を、との事だが……良いのか?」
俺は春菜に問い掛ける
俺が知っている限り、春菜が料理を作った事は無い。この勝負、圧倒的に春菜が不利だ
「大丈夫だって。実は最近料理の練習してたんだ」
春菜は自信有りげに言った
「そうなのか? でも何で料理の練習を?」
食う以外の事に興味無いはずなのだが
「ん? ん~、まぁ兄貴に何か食わそうとかなって」
「俺に?」
「ああ。兄貴はいつも私に美味いもん食わせてくれてるからな。だから……」
「……だから?」
「あ、な、なんでも無いから! じゃ、先に私が作るぜ!!」
春菜は何故か慌ててキッチンへ
「……手強いかも」
「ん? どうした、雪葉」
「うん……うん! 雪葉も頑張るからね、お兄ちゃん!!」
「あ、ああ、頑張れ」
何だか良く分からんが、雪葉は燃えている
「うおおおおー!」
キッチンから獣の様な雄叫びが聞こえた
「……料理作ってるんだよな、アイツ」
「う、うん」
「…………」
不安だ
「ちょっと覗いてみるよ」
雪葉をリビングに残し、俺はキッチンの中へと入る
「うおおー! 燃えろ、燃えろ~!! 料理は炎。炎を極めるのが料理だぁああ」
「な、なんと!? 春菜が操るフライパンに炎が噛み付いている! これはまるで空を駆けし龍が月を食わんとする姿ではないかぁあああ!!」
「まだまだ~!」
「こ、米がフライパンの上でワルツを踊っているぜ! そこにタマゴ婦人がやって来て、アンサンブルを奏でおるわ! なんときらびやかな社交界! こ、これはチャーハン!?」
「次はこれだ~!」
「な、なにぃ! チャーハンに塩と豆板醤を加え、輪切りした赤唐辛子を入れて、更にババネロソースを混ぜるだとぅ!?」
一体どんなチャーハンが出来ると言うのだぁあ!!
「出来た! これが私の灼熱チャーハン!! さぁ兄貴、熱い内に味見をしてくれ!!」
春菜はレンゲで真っ赤なチャーハンを一口分すくい、俺の口元に運ぶ
「む、むぅ……見ているだけで汗がダラダラと出てしまう凄まじき料理よ。貴様の情熱、我が肉体に何処まで届くか試してやろう」
「はい、兄貴。あ~ん」
「あ~ん」
俺はチャーハンを一口食べた
…………ピキーン!
「ぬうっ! 辛い中にも辛さがあり、その奥には更なる辛さが広かって、辛いながらも辛いってか辛~~!!!」
口が、口が焼ける!!
「みふ、みふぅう!」
「な、なんだ? 何が欲しいんだ?」
「ひふ、ひふ~!」
「ど、どうしたの? あ、お兄ちゃん!? ち、ちょっと待ってて!」
慌ててキッチンへ飛び込んで来た雪葉は、直ぐに状況を察したのか冷凍庫からアイスクリームを取り出し、俺に差し出した
「あ、あひはと」
急いでカップを開け、一口
……ああ、舌が癒される
「大丈夫、お兄ちゃん?」
「あ、ああ、大丈夫、ありがとな。春菜、もう少し辛さを抑えた方が美味しいぞ、60点って所だな」
心配そうな雪葉の頭を撫でつつ、肩を落としている春菜をフォロー
「……ごめんな兄貴。やっぱり私に料理は似合わないな」
「んな事ないっての。めちゃくちゃ辛いけど、美味いっての」
チャーハンをフライパンから皿に移して水を片手に一口、二口
「ぎっ!? ……ほ、ほら、うみゃいやんか!」
しかし辛っ!? いや、美味ってか辛っ!!
「兄貴……」
「ひぃ、ふぅ、ひぃ…………ふ、美味かったぞ春菜、サンキューな。よし、次は雪葉の番だぜ!」
舌のダメージは深刻だが、どうやら俺は春菜の手料理が嬉しくて、テンションが上がっているらしい
「……ううん。雪葉の負けだよ、お兄ちゃん」
俺のテンションとは逆に、雪葉は若干沈んだ口調でそう言った
「雪葉?」
「春お姉ちゃんの初めての手料理に勝てるもの、作れないもん」
そう言い、雪葉はニコっと笑う
「雪……この勝負、無効だな! でも次に料理する時は負けないからな!!」
「お姉ちゃん……うん! 雪葉も負けないよ!」
互いを認め、微笑み合う二人の姉妹。なんと美しき事よ
「まぁこれで雪葉の勝ちは無くなったけど、次もやるのか?」
最後は雪葉が勝ち、仲良く引き分けで天下太平、万々歳となれば理想だが
「引き分けは無いよ、お兄ちゃん」
そんな俺の考えを読んだのか、雪葉は大人びた微笑みでそう言い……
「最後の勝負は2ポイントだもんね!」
ニッコリと笑った!
「え゛!?」
「え゛!?」
勝負はまだまだ続くらしい