第94話:雪のお仕事
起きた瞬間、俺は悟った
これはヤバイと
「う…………ぎ」
呼吸をする事すら苦痛に感じる全身の軋み。そう、これは
「き、きんにく……つう」
地獄の土曜日が始まったのだ
「だ……だれか……」
助けを呼ぼうにも声が出ない。携帯を取ろうにも、そこまで身体を動かせそうもない
「だめ……か」
俺は、ともすれば潤みそうになる瞳で白い天井を眺める
ああ、俺は此処で天井を見ながら一人寂しく朽ちて逝くのか……
バタンっ
ドアが強く開かれた!
「兄貴〜、遊ぼっ!」
現れたのは、白いTシャツと短パンが涼しげな春菜さんだった
「よ、よく来てくれた、よく来てくれたねぇ……」
感涙を流す俺を、春菜は戸惑った表情で見る
「ど、どうしたの? 兄貴」
「じ、実は……」
三分後
「なるほどな、運動不足なのに無理をするからだぞ」
春菜は、メッと顔をしかめながら小さい子供を諭す様に言った後、ニッコリ笑顔を見せて
「私に任せな!」
「ま、まかせた」
今は只、妹に身を任そう
「よし。それじゃマッサージだ!」
春菜は俺に背を向けてベッドへ乗り、俺の腹を跨ぐ
俺へ体重を余り掛けない様に、軽く腰を浮かしたその気遣いは素晴らしいが、偉大なる兄をケツに敷くのは如何なものか
「んじゃ足から行くぞ〜」
「お、お手柔らかに」
「よしきた、よっと!」
春菜は俺の右足を両腕で掴み、胸に抱えて思い切り反ら……
ゴキン
「………………」
「あはっ。良い音鳴ったな、兄貴!」
「…………ぎっ、ぎゃあああああああ!!」
家中に響く俺の悲鳴は、子供の頃ニワトリの首を絞めた事がある母のトラウマを呼び戻しつつ、蒼天の空に吸い込まれて行ったそうな……