第92話:会の賢人達
某日、某時、某所
空はまだ明るいが、夕焼けが冴える黄昏れ時
貸し切った会議室の中、俺と六人の賢人達が席に着いていた
「本日も暑い中、お集まり頂きありがとうございます。本日は【佐藤 秋様は何故あれほど美しいのか】を議題に討論を開始したいと思います」
「それは良い。しかし秋様の美しさを討論で証明出来るかどうか……」
議長である岡部が最初にテーマを言い、次にこの会議室を提供しているこの学校の生徒会長、遠藤が発言をする。いつもの事だ
そして遠藤はそのまま次へ繋ぐ
「私達の指導者、キングブラザーはいかが思われます?」
「……ゼウスの真の姿を見れば、人は焼け死ぬと言う。凡庸たる我らが秋姉の美を語れば舌が裂けるであろう」
「やはり! ……やはり人の身では秋様の美しさは語れぬかぁ!」
男子剣道部主将、赤田が吠えた
赤田は秋姉の素晴らしさを朝まで語る会の四天王の一人であり、健康的に焼けた肌と、猫科の動物を思わせる柔軟性に富んだ肉体から、東海道の黒豹と呼ばれている猛者だ
「まて赤田、結論を付けるのは早い。……見ろ、マスターの目が閉じられている」
遠藤は熱くなる赤田を諭す様にそっと言った
「マ、マスターが思案なされておられる! なれば我は只待つのみ」
流石赤田。熱くなっていても、直ぐに冷静を取り戻す
「ぼ、ぼく、マスタのこんな緊迫した姿、初めて見たよ!」
我がメンバーの中で一番新しい幹部、リオンが驚きと戸惑いの声を上げた
「リオンはこの幹部会に出席出来る様になってまだ日が浅いからね。よく見ておくんだよ、次にマスターの目が開いた時……星の運命は変わる」
いや、変わらないから。思わずツッコミを入れたくなる事を言う男は新谷
新谷とリオンは吹奏楽部のエースで、リオンはイギリスから来た交換留学生。
その細く長い指から放たれるピアノの旋律は美しく、天上のピアニストとまで呼ばれている
新谷は音の魔術師だ。殆どの楽器をいとも簡単に操る様は、悪魔の様に美しい
「……彼、目覚めるわ」
そして四天王最後の一人。紅一点にして希代の預言者、鈴花が呟く
「…………ふぅ」
鈴花の声の通り、俺はゆっくりと目を開いた。上座に座る俺を、皆が音も出さずジッと見つめている
ゴクリ
唾を飲む音が、静かな会議室に響く
「……諸君」
「はい」
「うん?」
「はっ!」
「はい、マスタ!」
「なんでしょう?」
「……なに? マスター」
「秋姉のスーツ姿を見たか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……どうやら見た様だな。どうだ? 最高だっただろう?」
「はい!」
「確かに最高でしたな。否定しようが無い」
「あれが……女神か」
「格好良かったよ〜」
「うん、良く似合っていたね」
「…………わたし、見てない」
鈴花はいつも余り感情を出さないが、よほどショックだったのだろう珍しく悲しげに呟いた
「そ、それはまた……」
「そ、そんなにショックうけないで鈴花〜。ぼく後でどれだけ似合っていたか説明するから〜」
「…………無常」
「また見れるよ、鈴花」
「いやいや、そうは見れまい。同じ学年で同じクラスの私ですら初めて見れたぐらいだ。運が無かったな鈴花。いや、しかしあれだけ大騒ぎになったと言うのに見れなかったとのは、もはやバカと言っても過言では無いな、はっはっは」
「……お前、今日三回サイフ落とす。メガバカ」
「ふ、私のサイフはチェーン付きだ。落とす訳……無い!?」
「デラバカ」
今日の不運
遠>鈴>>>>>>>岡≧赤≧リ≧新>>>>>>>>俺
なんだこりゃ