燕の元カレ 2
燕と出会ったのは中二の冬。秋姉の部屋に燕が遊びに来たのが、きっかけだった
その日学校から帰った俺は、誰か居るかなと、先ずリビングへ行った。
すると、リビング奥のキッチンに人の気配
『ん? 秋姉?』
何と無く秋姉のような気がして、呼び掛けながらキッチンへと入ると、冷蔵庫の前で腰に手を当てて麦茶を飲んでいる髪の長い女性と目があう
それは真冬に咲く花の様に凛とした雰囲気を持つ女性だった
隙無く整った容姿と、スマートでしなやかな身体。そして何より目立つのは、強い意志を感じる真っ直ぐな瞳だ
何この方、女神様かしら? (この頃、俺の脳内では秋姉は天女)そう思ってしまうのも無理のない美しさを、俺とそう歳が離れていなさそうな女性は既に持っていた
『君は秋の弟かな?』
口を開く女性。その声は高すぎず低すぎず、耳に小気味よく響く
『え、ええ、そうです……貴女は?』
『私は秋の友人で菊水 燕。宜しく』
『よ、宜しくお願いします』
俺の目を真っ直ぐ見て、ハキハキと答える女性に俺は圧倒される。夏紀姉ちゃんとは違った威圧感だ
『君の名前を聞いても良いかな? 秋からは、あの子とだけしか聞いていないんだ』
菊水さんは苦笑いをし、軽い口調で俺に名前を尋ねた
『恭介と言います』
『恭介君か、良い名前だと思うよ。響きが綺麗だ』
そう言い、菊水さんは麦茶を一口飲む
『燕も可愛いと思いますよ』
『ぶふぅ!?』
『うわ!? 汚ねぇ!』
『ごほ、ごほごほ!』
『だ、大丈夫ですか?』
『君!』
『は、はい!』
『君は会って間もない女に平気でそう言うことを言える男なのか!?』
『そう言う事?』
『か、可愛いだとか!』
『え? い、いや、名前がですよ?』
『わ、分かってる! しかし、突然呼び捨てで、か、可愛い等言われては動揺するじゃないか!』
『す、すみません……。あ、菊水さん、鼻から麦茶が……』
『っ! け、化粧室をお借りする!!』
そう言い菊水さんは顔を真っ赤にさせ、早足でトイレに向かって行った
「…………」
酷い出会い方だな。ロマンのかけらも無い
「……燕の事、考えてる?」
「何故それを!?」
女神は思考さえも読むと言うのか!
「……呆れたような苦笑い。でも表情は柔らかくて嬉しそう」
「そ、そうかな?」
なんだか照れ臭いな
「燕も貴方を考えてる時や、貴方の話している時そういう顔になるよ? ……最近、見れなかったから見れて嬉しい」
優しく微笑む秋姉。その優しさが俺のアミノ酸!
「……まぁ、俺と燕は似てるらしいからね。前に燕の友達が言ったよ」
不器用な所とか何気に不運な所とか、ツッコミ気質な所とか……あれ? 良いとこ無くね?
「…………似てる?」
秋姉の顔にハテナマークが浮かぶ
「あ、顔の事じゃ無いよ」
「似た者どうし?」
「そう、それ」
「…………うん。二人とも優しいね」
「ありがとう」
秋姉には敵わないけどね
「そうそう、燕って言えばさ」