第90話:燕の元カレ
「ただいま〜」
駅前で燕と別れ、家へ帰宅。久しぶりに燕と会い、やはり綺麗な奴だと思ったが、以前より俺の心はときめかない。何故ならば……
「……おかえり」
家にも女神が居るから!
「ただいま、秋姉」
わざわざ部屋を出て、玄関で迎えてくれる秋姉に感謝
「ん……お疲れ様」
最近、益々美しくなってしまった秋姉。このままでは歩いただけで男を気絶させてしまうのではないか?
「…………?」
そんな心配をしていると、秋姉は俺の顔をジっと見て小首を傾げた
「どうしたの?」
「燕に会った?」
「えっ! 何故それを!?」
女神に隠し事は出来ないと言うのか!?
「……ん」
秋姉は俺の袖を指差す
「え? ……あ、香水か」
微かに残る香水の匂い。凄く薄いのに、流石女神
「……貴方と逢う時だけ燕はスズランの香水を付ける。スズランの花言葉は幸福の訪れ」
ニコッと微笑む秋姉。その笑顔こそが俺の幸福さ
「って、そうだったのか」
一年以上付き合っていたのに気が付かなかったぜ
「でも……よかった」
秋姉はホッとした様に言う
「秋姉……」
……ごめん
燕は秋姉の親友だったのに、俺のせいで気まずくさせてしまったのだ
「燕とはもう仲直り? したから大丈夫だよ」
「……ん。……お茶」
「飲む!」
んで、リビング
「……はい」
「ありがとう」
クーラーをかけて、秋姉の容れてくれた熱い緑茶を飲む
「……ふぅ」
至福の時だ
「……はい」
「ありがとう」
お皿に二つ。近所の和菓子、花月のドラ焼きだ
秋姉は自分が三時前に帰ると、必ず俺と春菜と雪葉のおやつを自分のお小遣で用意してくれる。
一度、嬉しいけど気を使わないで欲しいと言った所、悲しげな顔をさせてしまったので、今は素直に頂いているのだ
秋姉の選ぶお菓子は、どれも美味しく、何気に俺達の間で毎日の楽しみになっているが、たまにジョーカ(手作り)があったりする
……そういえば燕と始めて会った時のおやつもドラ焼きだったな
お茶とドラ焼きを楽しみながら、俺はあの日の事をぼんやりと思い出す