雪の秘密 4
【八階映画館】
「……よし、行くか」
上演中だが、開始から30分経っていない。まだ間に合う筈だ
「…………こ、これに入る気?」
「ああ。これが見たかったんだ」
【怪奇! 死霊だらけの大運動会】
「も、もう上演してるみたいだし、次のじゃ駄目なの? コメディーみたいだけど……」
【ほのぼのコメディー。死神さんと365日】
わー。超面白そー
「だけど……、これしか無い。これしかないんだ!」
「そ、そんなに見たいの?」
花梨は、不気味なポスターを見たまま固まっている
「……もしかして、怖いのか」
「っ! こ、怖く無いわ! い、いくわよ!!」
ずんずんと、先を歩いてゆく花梨さん
「ま、違ったら直ぐ出るから。えっと……学生一枚に子供一枚」
販売員からチケットを買い、いざ中へ!
そんな感じで入った映画館は、空いていた。百席はあるってのに俺達を含め、10人前後しかいない
さて、雪葉達は居るかな……
「…………あ!」
右端の前から三段目に座っている二人組
一人は子供なのか背が低い。そして被っているのは……雪葉がお気に入りの帽子!
「やはり此処か……」
ホラー映画を見ながらさりげなく密着。スケコマシ糞野郎がやりそうな手だ!
「花梨、あそこに座るぞ!」
雪葉達より一段後ろ
「え? ……こんなに空いてるなら、わざわざ人の後ろに座らなくても良いじゃない」
「あそこが一番良く見えるんだ。あそこ以外無い!」
いざとなれば攻撃も可能です!
「別に良いけど……」
花梨は微妙に納得してなさそうだが、とにかく俺達は二人組の後ろへと座る
「…………さてと」
ジッと前二人の後頭部を見て、警戒。何か怪しい動きがあったら即、パンチ。それは兄である俺に神から与えられた権利だ(錯乱中)
十分後
「…………」
「……あっ! ……」
更に十分後
「…………」
「ぃっ!? ……」
更に更に十分
「…………」
「ぅう……」
ひたすら二人の後頭部を見ている俺の横で、ガタガタ震える花梨さん
「……もしかしてホラー苦手なのか?」
「っ!?」
話し掛けると花梨はビクッとし、腕で身体を抱きながらホッとしたようにこっちを向いた
「べ、別に。霊なんて信じてないもの」
「ふ〜ん……あ、花梨の後ろ」
「きゃー!?」
慌てて俺の左腕に抱き着く花梨さん。やっぱ苦手なようだ
「何も無いから心配するなよ」
「ふ、ふざけっ……う〜〜〜」
あれ? ……ヤバ!? 目が潤んでる!
「ご、ごめん、ごめん……ほら、もっとしっかり抱き着いてな。少しは怖さも紛れるだろ?」
「こ、怖くない!」
そう言いつつ、花梨は俺の左腕を両腕でギュッと強く抱いた
「…………」
「な、少し気が紛れるだ……お前、大丈夫か?」
暗い映画館の中ですら分かるぐらい、顔が茹でダコの様に赤くなっている
「う、うるさい!!」
いや、うるさいのは君の方でしょ
花梨の声に驚いて振り向いた前の二人は……
「…………別人やんけ!!」
「うわ!?」
「きゃあ!?」
「う、うわぁああん」
前の二人は普通の親子でした。