雪の秘密 2
春菜にカニチャーハンを作り、俺は家を飛び出し走り出す
行き先は勿論、駅前のデパートだ
駅前のデパートは、この駅近辺で一番大きな場所で、ゲーセンやバッティングセンター、更には映画館まである
例えばゲーセン。そんな魅惑的で怪しげな場所で二人……
『雪葉ちゃん、ゲーセン行こうよ!』
『え? で、でも、ちょっと怖い……』
『大丈夫だって。僕、欲しい物があるんだ~』
なんて言って、無邪気さをアピールして……
『これこれ! これが欲しかったんだ。よ~し、やるぞ~。えい! えい! あれぇ、失敗しちゃったよ~』
なんてわざとらしい小芝居をしつつ……
『残念……。でも、本当に欲しい物だけは失敗したくないな』
『本当に欲しい物?』
『雪葉ちゃんのハート』
『あ……。雪葉のハートは、もうきっちり掴んでるよ!』
「……ざけやがって」
見え透いた手で純心な雪葉のハートをキャッチだぁ? 待ってろよ糞ヤロウ! 今すぐ貴様の首をキャッチして引き抜いてやるわ!!
「…………まてよ」
映画館かもしれない
『雪、映画を見に行こうか』
『うん。……ホラー?』
『怖いのかい、雪』
『……うん、ちょっと』
『なら手を繋いであげよう』
『あ、……うん』
『ほら始まったよ、雪』
『キャー、怖いよ~』
『ふふ。もっと抱き着いてきたまえ、もっとだ、もっと!』
「……殴ろう」
奴の面をホラーにしてやる
「…………はっ!?」
ま、まさかバッティングセンター!?
『雪葉君、僕がバッティングを教えてあげよう』
『はい、先生!』
『よし、先ずは振ってみるんだ!』
『はい! えい!』
『駄目だ、駄目だ! 腰がなっとらん!! ……どれ、先生が腰を支えてやろう』
『あん、そこは胸です。先生のエッチ♪』
「うん、殺ろう」
きっと神様も許してくれるさ
罪を犯す覚悟を決めている内にデパートの前へとたどり着く
土曜日の昼だからか、デパートには親子連れやカップル達が多く、一人で居る人は少ない。目立ってしまうな……
目立つ→先に見付かる→逃げられる→逃げた先はホテル街→→→→→朝帰り
「な、なんてこった……」
お、俺はどうしたら良いんだ!
「……さっきからなにしてんのよ、あんた」
デパートの脇で苦悩していると、背後から聞き覚えのある声で呼ばれた
「ん? あ、ああ」
振り向くと、腕を腰に当てて偉そうに俺を見上げる花梨さん
「ちょっと、悩んでて……。花梨は何をしてるんだ?」
「私は暑いから涼みに……って、あんたには関係無いでしょ!!」
「す、すみません……」
「ふん!」
何故怒られなきゃならないのだろう?
「……でも、本当に暑いな」
こんだけ暑ければ、涼みに来るのも分か……そうだ!
「花梨!」
「きゃ!? な、なによ!」
「付き合って下さい!」
「………………え?」
「俺に付き合って下さい!」
「えぇ~!?」
「お願いします!」
「そ、そんな事、き、急に言われても……」
「花梨じゃないと駄目なんだ!」
「っ!? な、な、な、なに言って!!」
「お願いだ花梨。花梨しかいないんだ……」
「あ……ぅ……で、でも、あたしまだ……」
「お願いだ、花梨」
「……と、とりあえず考えておくから……」
「今直ぐじゃないと駄目なんだ!」
「す、直ぐ……」
「…………駄目か?」
「…………」
「嫌か?」
「……ゃじゃ………ない」
「え?」
「…………」
「…………花梨?」
「…………」
「…………」
「……………………ん」
「ん?」
「…………んっ!」
「は?」
「っ~~! だ、だから付き合っても良いって言ってるのよ、ド馬鹿!!」
「あ、ありがとうございます!」
「バカ、バカ、バカ、バカ、バカァ!!」
「す、すみません! あざ~っす!!」
「う~~」
「すんません、無茶言ってほんとすんません!」
「う~~~~~」
「いや、すんません! ほんとすんません!!」
で、三分後
「…………」
「…………」
急に重苦しい雰囲気になった俺ら。花梨は一言も発せず、ずっと俯いている
「……か、花梨さん?」
「っ!?」
声をかけると猫の様にビクッと反応し、俺から距離をとった
「…………な、なによ」「あ、いえ……」
「…………」
「…………」
何なんだ、この雰囲気
「…………あ!」
「な、なに!?」
こうしている間にも雪葉が毒牙に!
「こんなことしている場合じゃない! 行くぞ花梨!!」
「きゃ!?」
俺は花梨の腕を取って、デパート内へと侵入した