第86話:俺のおやすみ
「へっくしょい!! …………うん?」
自分のくしゃみで目を覚まし、顔を上げると、そこはいつもの見慣れた俺の部屋では無くリビングのテーブルだった
「ぬぅ……痛っ」
何故か頭が割れる様に痛い
「一体何が……」
「うぃー、もっと飲むにゃ~、むにゃむにゃ」
「…………」
正面の席で顔を伏せって寝ている姉を見て思い出す
机には空になった八本の瓶。流石に少し引いてしまう
「ハァ」
溜息をつきながら壁時計を見ると、午前三時。秋姉達も倒れたままだ
「よっこいしょっと」
恥ずかしながら掛け声をかけ、立ち上がる
「秋姉、春菜、大丈夫?」
「…………ん」
「う~」
ソファー近辺で倒れている二人に声をかけてみるが、二人とも苦しそうに眠ったままだ
「母ちゃんは……」
「夏紀は一月トイレそうじ~」
「…………」
姉ちゃんが聞いたら泣きそうな寝言を言いながら、すやすやと寝ている
「…………よし」
ミッション1
【秋姉を部屋へ運べ!】
「秋姉、ちょっとごめんね」
秋姉を抱き抱え、立ち上がる。細身なのに柔らかく、軽やかだ
秋姉の部屋はリビングを出て直ぐだから、何とか運べるだろう
「…………ん」
秋姉の瞼が微かに震える
「ごめんね」
お姫様抱っこなんかしちゃってさ!
リビングを出て、秋姉の部屋の前。桔梗の花を遇った襖の前でしばし硬直
勝手に入ってしまって良いのだろうか……。いや、良い! 良いはずだ! 俺は弟なのだ、何が悪い!! 躊躇するな、躊躇は迷い、迷いは未来を閉ざす! さぁ、行け恭介よ、襖を開ければそこは桃源郷だ!!
覚悟を決め、俺は襖に手をかけ
「……恭介?」
なくて良かったぞ、こんちくしょい!
「め、目が覚めたんだ秋姉」
「ん。……私、あのまま寝ちゃったんだね、ごめんなさい」
「あ、あやまるごたね! 悪いのはあの女だぁ」
何故か訛ってしまう
「もう大丈夫」
下ろしてと、秋姉は目で言う
「そ、そう」
ゆっくり下ろすと、秋姉は何事も無い様に平然と立った
「……ありがとう恭介」
微笑む秋姉。取り敢えずミッション完了!
「おやすみ、秋姉」
「ん……。おやすみ、恭介」