夏の惨劇 2
「いやね、嫌な予感はしたんですよ。雪葉があんなに酔っ払っていたんですから、本人はエライ事になっているんじゃないかって」
――リビング――
そこは死屍累々の風景でした
折り重なり、倒れる姉と妹達。母は苦悶の表情を浮かべながら、ソファーからずり落ちています
一体何があったのか
私がリビングを離れた三時間の間になにがあったのか
「あ、秋姉! 春菜!!」
私は仰向けに倒れる二人に駆け寄ります
「……きょう……すけ」
姉は弱々しい声で私を呼び、私の頬を撫で、意識を失いました
「あ、秋姉!? 秋姉〜!!」
「……あ、兄貴」
「春菜! 無事だったのか!?」
妹は、震えながら手を私に伸ばしました
「一体何があったんだ!!」
その手を握り、妹に尋ねます
ガタン
リビング奥のキッチンから物音がしました
「っ!? に、にげて……にげて兄……貴」
最後の力だったのでしょう。私にそう伝えた後、妹の手から力が消え、妹もまた意識を失いました
「は、春菜? あ、ああ……」
どうしてこんな事に……
「何故だ〜!!」
慟哭。私は最愛の姉と妹を失った悲しみに打ちのめされ、この理不尽な世界を呪うように吠えました
「……うふふ」
「ひっ!?」
リビングとキッチンを結ぶドア。そのドアが僅かに開き、出来た隙間から片目だけが、こちらを覗き込む様に浮かび上がります
「うふ……うふふふふ」
ドアがゆっくり開きました
キャミソール姿の姉は、右手に鈍器のような物を持ちながら、酔っているのでしょう、ふらふらとこちらへ近付いて来ます
「な、夏紀姉……」
この惨状は貴女が?
「ほら見て! 伝説の焼酎、百年の孤独よ!!」
姉は右手に持つ鈍器を掲げ、意味の分からない言葉を私にはきかけます
チーン
「お、焼けたかしら。アジのひっらき~」
今にも小躍りしそうなぐらい上機嫌な姉は、鼻歌なんかを歌いながらキッチンへと戻って行きました
……逃げよう
今ならば逃げられる
その時の私は、恥ずかしながら倒れた母や姉、妹の事を忘れ、ただただこの場から逃げる事ばかりを考えていました
「あ、恭介」
いなくなったと思った姉が、ひょっこり顔を出しました
「な、なに?」
「アンタは何飲む?」
アンタハナニノム
南アジアの方面に伝わる呪詛なのでしょう。その言葉は、私の身体を停止させます
「お、お茶で」
「お茶割りね。ふふ、中々渋いじゃない」
「い、いえ。ただのお茶で……」
「ただの茶なら要らねぇ、俺はストレートで飲むぜ? ……中々言うわね」
「何も言ってませんけど……」
どういう耳をしているんだ?
「よし、ならとことん飲みましょう! アンタとアタシ、どちらが上か。負けた方は一日奴隷よ!」
こうして奴隷と王を決める戦いは幕を開けたのでした