第85話:夏の惨劇
「……ふ、宿星か……」
「おにぃちゃん!」
「っ!?」
部屋のベッドに座り、窓から星を眺めていると、いきなりドアが開き雪葉が乗り込んで来た
「ど、どうした雪葉?」
「雪葉は怒ってるの!」
怒りからか、雪葉の顔は真っ赤になっている
「え、えっと……俺、何かしたか?」
身に覚えは無いが、これほどの怒りだ。もしかしてとんでもない事を……
「お兄ちゃん、最近雪葉のおでこにキスしてくれない!!」
「…………え?」
「どういう事なの!」
「えっと……え?」
「嫌いなの!」
「え?」
「雪葉の事が嫌いなの!?」
「い、いやそんな事無いって! す、好きだぞ」
「好きならキスを要求します!」
「はい?」
「おでこにチューは雪葉の権利なのです!」
「ど、どうしたんだ、雪葉?」
いくらなんでも様子がおかし過ぎる
「……にやー!」
「うわっ!?」
雪葉は俺に飛び掛かり、身体を擦り寄せる
「頭を撫でると良いのです!」
「あ、ああ」
なでり、なでり
「ふに……。うん、八十点です! 良く出来ました!!」
「あ、ありがとうございますって、お前酒臭いな!?」
「さけ? ……えへ」
にへら〜と笑う雪葉さん
「……あの女か」
いたいけな雪葉に酒を飲ます奴は一人しかいない
「兄ちゃん、ちょ〜っと夏紀姉ちゃんの所に行って来るよ。離してくれるか?」
雪葉は俺をガッチリ抱いていて、離れない
「離れません!」
ギューっ
「離したまえ雪葉君!」
「離しません!」
ギュ、ギューっ!
「これだけ言っても離さない……か」
仕方ない。あれを使うしか無いようだな
「……覚悟しろよ、雪葉」
対、雪葉用最終奥義
「……こほん。ね〜むれ〜ね〜むれ〜あ〜に〜のむね〜に♪」
「…………ふぁ」
幼い頃から聞かせて来た兄の子守唄。雪葉限定だが、ローレライの人魚並の睡眠効果がある
「に……ぃ…………」
カップラーメンを煮る時間で、寝息を立てはじめた雪葉
「…………ふふ」
良い夢見ろよ