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夏の思い出 2

車は、あたし達の直ぐ後ろに止まり、中から四十代半ばのオッサンが下りてきた


『こんな夜になにやってんだ?』


黄色いTシャツに薄汚れたジーンズ。でっぷりとした腹が目立つ典型的な中年オヤジ


あたしは軽く会釈をし、返事をせずに歩く


『どっか行くなら送っていってやるよ』


『いいえ。直ぐ近くですから結構です』


『送ってやるって』


オッサンは、あたしの空いている方の腕、左腕を掴み、引っ張った


『止めて下さい!』


オッサンの腕を振り払おうとしたけど、オッサンの力は強く、払いのけられない


『大丈夫だって。後でちゃんと送るから』


ニヤつくオッサン。嫌な笑みだ


『や、やめてよ!』


グイッ


強い力で引っ張られた


それは、あたしを車に連れ込もうとしているオッサンの力じゃなく、オッサンよりも、あたしよりも小さな弟の力


『お姉たんを離せ!』


『あ? 敬語使えよ!』


ゴツン。オッサンのゲンコツが弟の頭に落ちた


『な、なにをするのよ!』


パシン!


一瞬何が起きたのか分からなかった。ただ、頬がヒリヒリ痛くて、オッサンの声が耳障りで……


『お姉たんに何するんだ!』


『あ! いって!? このガキ噛み付きやがって!!』


ゴツン、ゴツン、ゴキ、バギ


めちゃくちゃに殴られ、弟の顔は真っ赤になった


『離せ、離せ!』


でも、弟はあたしの手を離さない


『いい加減にしろよ!!』


オッサンはポケットから何かを取り出した。チキチキチキと、図工の時間に聞いた音がする


そして……


『あうっ!?』


弟の腕から、血が噴き出た


『あ…………あぁ』


恐怖で震えるあたしは、何も出来ず、ただ、呆然と立ち尽くす


『離せ、離せ、離せ!!』


いつも直ぐ泣く弟。ちょっと転んだだけでも泣いてしまう弟


『お姉たんを離せ〜!』


泣いてない。必死の形相であたしを守ってる


『い、いい加減にしろ、このガキ!!』


オッサンは再び腕を振り上げた


『っ!? こ、この』


それを見て、あたしの頭の中で何かが切れた。そして身体は勝手に動いていた


『この変態が!!』


生涯に一度出るか出ないかの完璧な前蹴り。 

 もし神様がいるなら、あたしはこの蹴りが出せた事を一生感謝する。てゆーか、ありがとう蝶野


あたしの蹴りはオッサンの股間に吸い込まれる様に入り、オッサンはギャっとニワトリの首を絞めたような声を出して、泡をふいて倒れる


それを見てあたし達は、すかさず逃亡。勿論車のナンバーは覚えて、警察へ連絡


離れた所に隠れて、弟の治療をしている内に、警察は直ぐに来た


そこであたしも警察の前に出て状況説明。オッサンは連行、あたし達は警察暑で事情聴取


『事情は分かりました。ありがとう……よく頑張ったね』


一番の英雄である弟の頭を婦警さんが優しく撫で、あたし達にチョコレートをくれた


それを嬉しそうに食べる弟を見て、あたしは急に怒りを覚える


『……バカ』


『ん? なーに、お姉たん』


『バカ! 何で逃げなかったのよ!! あんた、下手したら殺される所だったのよ!?』


理不尽な怒り。婦警さんもびっくりして、あたしを止めようとしたが、あたしの怒りは治まらない


『あんたが死んだらあたしの責任じゃない! あたしそんなの償えない! そうじゃない! あんたが死んじゃったら嫌!!』


『お、お姉たん……』


『ばか! ばか! ばか!! ばかぁ!!』


本当に馬鹿なのはあたしだ


勝手に連れ出して、危険な目に合わせ、それでもあたしを守ってくれた弟に、お礼すら言えない駄目駄目な姉ちゃん……


『ご、ごめんなさい、お姉たん。……泣かないで』


『……あ』


いつの間にか、あたしはぽろぽろと涙を流していた。記憶している限り、始めての涙


『泣かないで、お姉たん』


弟も涙で顔が、ぐしゃぐしゃ


『ご、ごめん。謝るのはあたしの方、本当にごめんなさい……』


『姉たんが無事なら良いよ!』


真っ直ぐな笑顔。何よりも真っ直ぐに届く言葉


『っ! んぅ~~~もぉ~~!!』


『ぐえ!?』


あたしは力いっぱい弟を抱きしめた


沢山の感謝と、沢山愛を込めて


『大好き!』


大好きよ、みっちゃん!!



水曜ドラマ太郎


【あたしとみっちゃん】




「う〜ん」


夕食後、部屋に戻らずドラマを見ていた俺と夏紀姉ちゃん。余り面白くなかったが、なんやかんやと最後まで見てしまった


「十一時か……」


そろそろ寝るかな


「……ぐす」


鼻を啜る音が聞こえ横を見ると、夏紀姉ちゃんが涙ぐんでいた。もしかして感動したのか?


「鬼の目にも涙……か」


「誰が鬼だ!」


「耳、良過ぎ!?」


「たく! …………あ〜ゴホン、ゴホン!」


「風邪?」


「あ〜その〜ま〜その〜」


「田中角栄?」


「…………」


「??」


「あ、あの時は…………あ、ありが……と」


「……は? 何言ってんのさ、いきなり」


「ぐっ! 何でもないわよ、ボケが!!」


「ボ、ボケ……」


夏紀姉ちゃんは怒り、どかどかとキッチンへ行ってしまった


「…………はぁ、全く」


ドラマに感化されたのかな


「礼なんか要らないって、姉ちゃん」


腕に今だ白く残る傷跡を見ながら俺は、あの日大切な姉を守れた事を誇りに思うのだった


「あ~イライラする! 酒飲むわよ、酒!! 付き合いなさい!!」


「…………」



今日の照れ隠し


夏>>>>>>>>俺


「酒だ、浴びるように飲むのが酒だぁああ!!」


「ね、姉ちゃん。もう少し可愛いげがある照れ隠しを……」


「う、うっさい!!」


つづきくけ

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