秋の水泳教室 7
「では水に慣れる所から始めましょう」
美月と相談し、始まった水泳教室。美月達はプールの右端、俺達は左端のスペースを使い、訓練開始
「先ず、水に顔をつけてみよう」
「…………」
「ん」
俺の担当する生徒は秋姉と風子の二人。秋姉はあっさり水に顔を付けたが、風子は水を見たまま動かない
「大丈夫か、風子?」
「……全ての生命は海と言う水から生まれたと言うね。僕もまた、羊水と言う水から生まれた。なら水は僕らの故郷であり、母。……でもね、人は本能的に水を恐れる。それは自分の存在、自己足るファクターが……」
「早い話し、水が怖いのか?」
「…………うん」
「風呂とか入る時、顔を水に付けられるか?」
「……うん」
「なら水そのものが苦手な訳じゃないんだな。よし、それじゃ俺の手を握ってみな」
「うん」
「一、二の三で、ゆっくり潜るぞ。俺も一緒だから」
「……一緒」
「ん?」
「……やってみるよ」
「ああ!」
まだ水に恐れを感じている雰囲気だが、風子はしっかりと頷いた
「……よし。一、二の……」
ギュッ
目を閉じ、俺の手を強く握る風子
「三!」
さて、どうかな?
水中で目を開けると、風子もまた水の中にいた。よし、大丈夫そうだ
風子の手を、ちょっと強く握る
「…………」
その刺激を受け、恐る恐ると言った感じだが風子は目を開けた
「…………」
「…………」
俺が頷くと風子もまた頷き、ぎこちないながらも笑み浮かべた
「……ぷは」
「ふぅ。……良く頑張ったな風子」
水中から顔を上げ、俺もニッコリ
「……簡単だった」
「だろ?」
「あれだけ水が苦手だったのに、お兄さんと一緒だと簡単だった……。お兄さん。やっぱり僕は、お兄さんが好きみたいだよ」
「ありがとよ。俺も好きだぜ」
花梨も美月も……と、鳥里さんも良い子ばかりだ
「……ふふ。やっぱり僕はまだ子供なんだね」
「そうか?」
俺が小学四年生の頃は、もっと絶望的にガキだった気がするが……
ノスタルジックに浸っていると、風子は妙に大人っぽい表情を浮かべ、
「三年後。きっと僕は同じ言葉を言うよ。その時は覚悟していて欲しいね、お兄さん」
と笑った
「良く分からないが……オッケーだ。よし、じゃあ次はバタ足の練習でもするか」
「そうだね……今日は此処までにしてもらっても良いかい? 一度に色々覚えてしまうと、身体が驚いてしまうよ」
「そうか」
「ふふ。お兄さんのお陰で心拍数も高い。……それじゃ僕は雪達の様子を見てくるよ。お兄さんは秋さんと二人で頑張って」
そう言い、風子は雪葉達の方へと向かって行った
「って、凄いな秋姉は!?」
まだ潜ってるぜ!
「……ふぅ」
驚愕と尊敬の眼差しで見ていると水が揺れ、秋姉が顔を出した
水に濡れたくせ毛一つ無い漆黒のセミロングヘアーが、太陽の光を浴びてキラキラと輝く
「……美しい」
「?」
「あ、えっと……す、凄いね秋姉! 二分以上水に潜ってなかった?」
凄い肺活量だ!
「……ちょっと苦しかった」
照れた様に微笑む秋姉
「…………最高」
プール最高!