秋の水泳教室 4
睨む姉を無視し、俺はプールの隅っこで足をちゃぷちゃぷさせている雪葉の元へと行く
「雪葉」
「あ、お兄ちゃん」
雪葉はホッとした様に言う
「どうした雪……葉?」
声を掛けるまで気づかなかったが、雪葉の半径5メートル内に数人の監視者がいる
「ううん、分からない。……少し怖い」
雪葉は怯えた声を出し、ギュッと俺の足に抱いた
「何だか良く分からないが……大丈夫だ。何があっても、兄ちゃんが守るからな」
「お兄ちゃん……」
「いや、兄は俺だ!」
「いやいや、僕も兄だ!!」
「いやいやいや、私こそが兄だ!!!」
兄妹の感動的なシーンの最中、遠巻きだった周りは突然俺達に向かって集まり出す。目は血走り、声も上擦っている
少しと言うか、かなり怖い
「…………ず、随分兄弟が増えたな、雪葉」
「ゆ、雪葉の知らない人達だよ?」
「妹~妹~」
「うふふ~妹だ~僕の妹だ~」
「お兄ちゃんと呼んでおくれ~お兄ちゃんだよ雪葉ちゃ~ん」
「お、お兄ちゃ……」
怯える雪葉。此処は俺が守らなくては!
「ゆ、ゆ、ゆ、雪葉にち、ち、ち、近寄、よ、よよ」
「い~も~う~と~」
「あ~あ~あ~」
「あ~お~あ~お~」
水中からゾンビの様に手を伸ばす変人ども
恐すぎる!!
「待ちたまえ!」
その時、プール内にヒーローの声が響いた!
「誰だ!」
「何処に居る!?」
「あ! あそこだ~!」
変人どもの指差す方を見ると、入口からブーメランビキニの紳士が現れた。股間様がはみ出ている
「な、何者だ、あの紳士は!?」
「あ、あれはSISTER愛好会一番隊隊長、山口 真さん!?」
「此処は私が仕切ろう」
颯爽と歩む股間様。変態だ
「つ、遂にNIGHTが現れおった……現れおったぞ~」
「我等を導いて下され~」
盛り上がる彼ら
「…………」
「…………」
無言の僕ら
「……行こうか雪葉」
「……うん、お兄ちゃん」
とりあえず警察に連絡しておこう
「我等は自由の騎士だ! 例えば身体は縛られても心は縛られん!」
「はいはい、いい子でちゅね~。臭いメシ食って早く社会復帰するのでちゅよ~」
10分後、寝そべっている夏紀姉ちゃんの側でトロピカルジュースとアイスを食べながら拘束される騎士達を見送る
「平和だね~」
「お兄ちゃん、あ~ん」
「こ、こら恥ずかしいじゃないか!」
「この間の仕返し♪」
「……ふふ、参ったな」
照れながら口を開けて、雪葉のスプーンからアイスを食べると……
「……アンタらってつくづく大物よね」
姉が呆れていました