第79話:秋の水泳教室
「うわ! なんだあのエロいお姉様は!?」
「うぉう! こっちは美女だ!! 締まった身体が美しいクール美女だぁああ!!」
「美少女がいるぞ! あっちに健康的な美少女がいるぞー!!」
「か、可愛い……。可愛いすぎよ、あの女の子……」
「オーウ、ナイスなボディの美しいオバハンが居ますねー。でもちょっと年増えん!?」
此処は、ちょっとお高いホテルの屋上で、温水プール場
その広いプールに、ぷかーっと浮かぶ屈強な黒人男性。
彼に、さっき母ちゃんが椅子を投げつけた気がするが、きっと気のせいだ
「ふぅ。まだ六月だと言うのに暑いわね」
夏紀姉ちゃんは天井を見上げた後、ビーチパラソルへ向かって行った。どうやらあの女は泳がずに眠るらしい
「しかし確かに暑いな」
天井は紫外線をカットするガラスになっていて、日焼けを殆ど気にせず太陽の光を体全体に浴びられるのだが、ギンギラギンに輝く太陽が真上にあるのだ、暑くない訳が無い
「し、しかし、なんなんだこの人達は……モデルか何か?」
「うぉー! レベルが違いすぎて目がいてー! 同じ空気も吸えねー!!」
さて、この騒ぎは何なのか? それは俺達のせいである。水着姿の姉妹達は目立つのだ
「そ、そしてその中にただ一人男が……」
ふ、俺の事かい?
「な、何者なんだあの、目が死んでいる男は……」
「死んでねぇよ!!」
元気です!
「こら、そこの死人」
ビーチチェアに寝そべる夏紀姉ちゃんが俺を手招きする
「死んでないって!」
だが素直に行く俺が可愛い
「サンオイル塗りなさい」
「春菜さ~ん。出番ですよ~」
「オッシャー! プール最高!!」
春菜は準備体操もそこそこにプールへと飛び込んでいった
「早く塗れ」
俯せになってビキニの上を外す姉。
自分で塗りやがれ、この馬鹿姉! と、一喝してやりたいが、言った瞬間、俺の口にサンオイルと言う名の琥珀色な液体が注ぎ込まれるだろう
「はい、お姉様」
長いものには巻かれる。それってとっても素敵な生き方やん?
ともすればこぼれ落ちそうになる涙を堪え、俺は夏紀姉ちゃんの背中にサンオイルを塗る
「満遍なく塗りなさいよ。もし僅かでも日焼け後が見つかったら……」
「み、見つかったら?」
「……いなばの白兎」
夏紀姉ちゃんは謎の言葉を残し、目を閉じる
何だか良く分からないが、失敗は許されない。俺の本能がそう告げた