雪の反乱 2
「ごはんですよ〜」
雪葉の言葉通りに部屋で引きこもる事、三時間。 桃屋の商品名みたいに母ちゃんが夕食の時間を知らせてくれた
「よっこらせ」
立ち上がるのに掛け声が必要になって来た身体が悲しい
雪葉の機嫌は直っているだろうか?
俺は部屋を出て、リビングへと続くドアを開ける
「うっ!」
ピリ……ピリピリ!
肌を刺すような緊迫感
テーブルの椅子に、三人の姉妹達は無言で座っていた
「…………」
「…………」
「…………」
食事中は話し掛けない限り喋らない秋姉はともかく、やたら賑やかな春菜すら怯えるような表情で俯いていた
「……き、今日は天丼とうどんですか」
同じ側の手足を同時に出しながら歩き、席へと付く
「うわぁ、美味しそうだな。あはは」
しーん
「い、いただきまーす」
「ん、……お茶」
秋姉は立ち上がり、キッチンへ向かっていった
「…………」
「…………」
「…………」
残された俺と春菜と雪葉
静まり返る食卓で、さくさくの天ぷらを食べる音だけが響く
「……は、春菜。今日は学校楽しかったかい?」
沈黙に耐え切れず、春菜に話し掛けると、春菜は止めてくれ〜っといった風な困り顔をした
「ゆ、雪葉は学校どうだった?」
「うん。トイレが男の子と女の子、別になってるから安心して入れたよ♪」
「そ、そう……」
しーん
ガチャ
気まずい雰囲気の中、秋姉が四人分のコップと麦茶の入ったボトルを持って戻って来た
「……はい」
「あ、ありがとう」
秋姉から麦茶を受け取り、カラカラに渇いた喉に注ぎ込む
「……ふぅ」
一息で飲み干し、改めて姉と妹達を分析
秋姉は一見いつも通りに見える。だが、時折雪葉と俺を心配そうに見ている
春菜は怯えている。実は我が家で一番気が弱い春菜さん。この空気に耐えられないらしい
雪葉は、にこにこしているが、間違いなく怒っている。正直とても怖い、泣きそうだ
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
無言の食事はつつがなく進み、皆、食べ終えてしまう。最後にお茶を飲み干せば、各自部屋に戻ってしまうだろう
その前に何とかしなくては!
「あ、秋姉?」
「……なに?」
「今度の日曜日、プールに行こうか」
ぴく。雪葉の髪が揺れる
「ん……日曜日」
秋姉は考え込む
乗って来てくれ、乗って来てくれー!!
「……いいよ」
やった!
「春菜も行くだろ!」
「あ、ああ……良いぜ」
ちらっと雪葉を見ながら気まずそうに頷く
「ゆ、雪葉は……」
「行かないもん!」
ぷくーっと膨れる雪葉さん
「お、俺、雪葉と行きたいなぁ」
「お姉ちゃん達と行けば良いよ!」
「雪葉が来ないなら行かないさ」
「……行こう?」
「た、たっのしいぞ〜! 夏姉も誘ってさ」
「ぜったい行かないもん!」
膨れっ面のまま、ぷいっと横を向いてしまう雪葉。
小細工が悪かったのか、益々怒ってしまったようだ
こうなったら最後の手段しかないか……
「雪葉……今朝はごめん。兄ちゃんの事、許してほしい」
素直に謝る。これが最終手段だ
「…………はい、お兄ちゃん」
雪葉は元気無く頷いた
雪葉はどれだけ納得いかない事でも、俺が真剣に謝ると許してしまうのだ
出来れば、機嫌を良くしてから謝りたかったんだが……
「……プール、一緒に行ってくれるか? 機嫌取りたかったってのもあるけど、本当に雪葉と行きたかったんだ」
「……行く」
こくんと頷く
「母さんも行くわ~」
良すぎるタイミングで、キッチンから出て来る母ちゃん。手にはトレイを持っている
「イチゴのアイスよ~」
デザートらしい。ちなみにイチゴは雪葉の大好物だ
「あ、イチゴのアイス」
雪葉は嬉しそうに笑った。やっと見れた本当の笑顔
「流石母ちゃん……」
やはり最強は母ちゃんか?
「美味し~」
一口食べて、にっこり
「……ふふ」
やっぱ怒っている時の笑顔より、今の方がずっと可愛いぜ雪葉!
今日の過保護
俺
「雪葉、あ~ん」
「は、恥ずかしいよ、お兄ちゃん〜」
綴喜郡