第78話:雪の反乱
我が佐藤家の力関係は? と、問われたらジャンケンの様な物だと俺は答える
例えば俺と春菜がグーだとすると、夏紀姉ちゃんはパー……ぷぷ。
おっと失礼。夏紀姉ちゃんはパーであり、秋姉と雪葉はチョキである
母ちゃんはジャンケンにおけるジョーカーで、大体において最強を誇る
では母ちゃんが最強か? いや、そうとも言い切れない。何故ならば、極たまに発動する最強モード、ブラック秋姉の存在もあるし、雪葉の底力も忘れてはいけない
そう雪葉。日本最後の甘えん坊将軍と言う異名を持つ佐藤家四女。
その名に恥じない甘えっ子ぶりを発揮しているが、ごく稀に機嫌が悪くなる時がある。
普段は優し過ぎるぐらい優しくて、良い子な雪葉でも、その時ばかりは恐怖の大王と化す
そんな時の事を俺達は畏怖をもってこう呼んでいる
雪の反乱と
「ただい……ま?」
学校が終わり家へと帰って来た俺は、ふと奇妙な感覚に捕われた
言うならば、他人の家へ来た時に感じる居心地の悪さ
「……ま、まさか」
俺は過去に二度この感覚を味わった事がある。この張り詰めた風船のような空気は……
「おかえり、お兄ちゃん」
奥で掃除をしていたのか、廊下の角から雑巾で床を拭きながら雪葉は俺を向かえた
なんだ、普通じゃないか
「ただいま雪葉。掃除ご苦労様」
「うん、お帰りなさい。あ、お掃除の邪魔だから雪葉の視界から消えて欲しいな♪」
にっこり笑顔
「うぐっ!?」
俺の精神に70000のダメージ!
「そ、そうだ、ちょっと一休みしてソフトクリームでも食べないか? 兄ちゃん買って来るよ」
「ありがとう、お兄ちゃん。でも今はお掃除中だから話し掛けないでね」
超にっこり笑顔!
「……は、はい」
来た……
来た!!
雪の反乱が!!
「あ、そ、そうだー。僕、秋姉の部屋へ行って来よー」
ぎくしゃくする手足を無理矢理動かし、俺は玄関から近い秋姉に部屋の前へと立って……
「また勝手に開けるんだね、お兄ちゃんは♪」
グサッ!
心にナイフが突き刺さる
「あ、ああ、そうだね。は、春菜さん入っても宜しいでしょうか?」
しーん、と静まり返る廊下
「春菜さん?」
「春お姉ちゃんならまだ帰って来てないよ、お兄ちゃん」
にっこり
「…………そ、そう。じゃあ僕、お部屋に戻ろうかな」
「うん! もうずーっと出て来ないでね、お兄ちゃん♪」
素晴らしい笑顔で雪葉は言い、洗面所へと入って行った
「…………グス」
泣いてなんか、いないやい。これは只の花粉症だい