第77話:直の苦悩
「時間は夢を裏切らないんだよ」
「なるほどな。ならきっと今は自由に空も飛べる筈」
そんな適当な話をしつつ学校を目指していると、十字路の所で爽やかな少年とバッタリ会った
「お、直也君か」
「あっ! お兄さんに春菜……お、おはようございます」
直也君は姿勢を正し、腕を後ろに組んで深く頭を下げる。いつもより元気が無いな
「ああ、おはよう」
「……兄貴、私、先行くよ」
「春菜?」
「じゃーな」
春菜は直也君へ露骨に嫌悪感を現し、早足で去っていった
「……まだ仲直りしてないのか?」
春菜が誰かにあんな冷たい態度を取る所を始めて見た
「……はい。実は真剣に謝った後、一度は許してもらえたのですが……」
直也君は、うなだれてしまう
「言ってみな?」
「……はい。許してもらえた日、体育の授業があって、女子は保体だったのですが、早く終わったらしく見学に来たんです。授業は得意のサッカーで、俺、春菜に良いとこ見せようと張り切りました」
「ふむ、中々青春しているな」
「……はい。それで結構活躍出来て、試合も圧倒していたら途中で春菜が相手チームへ飛び入り参加したんです。制服で」
「……なにやってんだアイツは」
「春菜は人気あるし、スカートだったのもあってみんな最初は遠慮していたのですが、春菜がめちゃくちゃ良い動きして、あっという間に点数追い付かれてしまい、俺も何だかワクワクしてきて……」
直也君は言葉に詰まってしまう
「なるほどな。本気を出して春菜を圧倒してしまい、アイツは拗ねてしまったと。ふ、あいつもまだまだ子供だな」
「いえ、圧倒されたのは俺達です。俺、シニアで何度か全国行っていますが、あんな凄いシュートやドリブル出来る奴、見た事無いです」
悔しさよりも、尊敬の方が強い言い方を直也君はした
「……相変わらずなんだなアイツ」
アイツは中二の頃、50メートルを6秒前半で走ると言う、訳の分からない怪物ぶりを見せている
「しかし分からないな。ならどうしてアイツは怒って?」
「そ、それは……」
「……それは?」
「すみませんっした!」
直也君は鞄をほうり投げ、土下座する
「ち、ちょ!? こ、こら、止めろって!」
「俺、試合に熱中して春菜からボールを奪おうと当たった時、俺、コケてその時、咄嗟に春菜のスカートを掴んでしまって!」
ま、まさか
「ぬ、脱がした?」
「すいませんでした! すみませんでした!!」
直也君はアスファルトの地面に何度もヘディングをする
「あ~~分かった、分かった。もう良いから面をあげぃ!」
「へ、へへぇー」
直也君じゃなかったら殴っているけどな