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第75話:家の裁判

さらさらと降る六月の雨


その雨から避難して来たのか、部屋の窓枠に止まった二羽の小鳥達。

 ピーピーと仲睦まく鳴き合うその声で目が覚める


「…………しょんべん」


部屋を出て、まだ寝ぼける頭でふらふらと廊下奥のおトイレへ


ガチャ


「…………え?」


「おっと……お~雪葉。お前もしょんべんかー、連れしょんだ~」


俺はズボンとパンツに手をかけ……


「お、おに……おに」


「おに? っ!! ゆ、雪葉!?」


何で此処にって、何やってんだ俺!


「お、お兄ちゃ…………っ~~~! お兄ちゃんのばかぁ~!!」

十分後。リビング


第七回、佐藤家緊急裁判


「裁判長! 即刻私刑リンチにするべきだと思います!!」


眼鏡を掛けた検事はソファーから立ち上がり、のんびり裁判長にいきなりそう言いやがった


「……無罪」


華麗なる若き弁護士は、美しい声でそうおっしゃってくれました


「有罪よ、有罪! 妹の前でポロリ!? どんだけ変態なのよ!!」


「……事故。いつも下着姿で歩く検事の方が変態」


「う……異議あり! その件につきましては、今は関係無いと思います!」


「異議を認めるわ〜でも裁判官の心証は悪くなったわよ〜」


「う……で、では次に状況証拠ですが……証人を連れて来ています」


「は〜い。証人さんいらっしゃ〜い」


朝ごはんを食べ終え、のんびりテレビを見ていたショートカットの証人が、面倒臭そうに証人席に現れた


「えっと……何すれば良いんだ?」


「朝、貴女が見た事をお話下さい」


「朝ねぇ……朝は」


証人Hの証言


「私は見たんだ。朝、怪しげな動きをする兄貴を……」



六月十ニ日火曜日、晴れ


『う〜』


あの日、いつもの様に六時半に鳴った目覚ましのベルで私は起きた


『…………顔洗お』


寝ぼけた頭で襖をあけると、兄貴がフラフラしながら廊下を歩いていたんだ


『お、兄貴おはよー』


『んあ? 春にゃおふぁーあ』


兄貴は目を擦り、欠伸混じりに返事を返した


「ありがとうございます春菜さん、また後でお話を聞かせて下さい。いかがですか皆さん!」


「?」

「?」

「?」

「?」


裁判長と弁護士、俺と証人は顔にハテナマークを浮かべる


「挨拶をしたと言う事は、意識がハッキリしていたと言う事。誰かが入っているトイレに間違えて入る事などあり得ません!」


「……異議あり。寝ぼけていても挨拶は出来る」


「……ふふ、ようやくその言葉が聞けたわ。被告人、前へ来なさい」


「……はい」


俺は、とぼとぼと前に出る


「貴方は朝、被害者である雪葉さんがトイレに入っているのを知っていましたね?」

「……異議あり。それは誘導尋問」


「異議を認めるわ~」


「ふふ、では聞き方を変えましょう。貴方は朝、トイレをノックしましたか?」


「え? いや、記憶に無いけど……」


「証言によると、ノックは無かったそうです」


「そ、そう? 寝ぼけたからかな」


「それはおかしいですね。貴方はトイレに入る時は必ずノックをしていたじゃありませんか? 何故その日だけノックをしなかったのです?」


「だ、だから寝ぼけていたから……」


「挨拶は出来たのに? 挨拶は出来たけど、毎日の習性であるノックは出来なかったと?」


「だ、だって寝ぼけてたから……」


「貴方は知っていた、雪がトイレに入っているのを! だからアンタは敢えてノックをせず、雪にポロリを見せようとドアを黙って開けたのよ!!」


な、なにを言ってるんだこの姉は。なんだか泣きたくなってきた……


「……異議あり。それは只の中傷。話にもならない……と言うよりそんな発想しか出来ない検事が変態」


「し、しかしですね!」


「……もう一度落ち着いて考えて」


「で、でも!」


「でも……なに?」


「うっ!?」

「うっ!?」


あ、秋姉が本気で怒っている!?


「そ、そ、そ、そうね。ち、ちょっと軽率的だったかもね、ほほほ」


夏紀姉ちゃんは視線をそらし、わざとらしく笑った


「と、とにかく! そいつがポロリを見せたのは紛れも無い事実!! わざとだろうが、そうじゃなかろうが、有罪は決定よ!!」


ビシッと俺に指を指して言い放つ姉。しゃくだがちょっとカッコイイ


「……ん」


秋姉の言葉が詰まる


そう、事実俺はポロリを雪葉に見せてしまったのだ。雪葉の気持ちを考えると言い訳は出来ない


「……ふふ。どうやら反論出来ないようね!」


「…………」


勝ち誇る夏紀姉ちゃんとは対象的に、秋姉は沈んでしまった


「さ~て、それじゃあコイツの私刑はアタシに任せて貰いましょうか?」



俺を見ながら唇を軽く舐め、笑う姉。奴はもはやゴルゴン化している


「…………鍵」


全てに絶望していると、秋姉がポツリと呟いた


「鍵は掛かっていなかった。……どうして?」


独り言の様に言い、目を閉じる秋姉。その姿はメデューサに挑んだペルセウスよう


「…………あ」


秋姉の瞳が開かれる。そして美しい声で言った


「ポロリして無い」


「……はぁ?」


呆れ顔の夏紀姉ちゃん。変顔だ


「……し、してない」


顔を真っ赤にし、俯く秋姉。可愛すぎ!


「ポロリして無いって、何言ってんのよ?」


「……鍵、掛かって無かった。雪が鍵を掛け忘れる可能性は、この子が寝ぼけてトイレを開ける確率より低い」



「ま、まぁ確かに雪はしっかりしているから……でも事実ポロリを!」


「……鍵が開いていたのは、多分、雪がトイレから出る所だったから。丁度その時に鉢合わせ」


……言われてみればそうだった気もする


「……だから状況的にポロ……ハプニングは有り得ない。何故なら二人とも立った状態で向かい合っているから」


寝ぼけていたとしても、目の前に便器が無ければ流石にポロリはしないだろう


「……思い出してきた。確かに俺はションベンをしようとトイレを開けたが、その時、雪葉は俺にもたれ掛かって来たんだった」


雪葉もドアを開けようとしていたのだろうが、先に俺が開けてしまったものだから、ビックリしてよろけてしまったのだ


「……流石だぜ、秋姉」


ゴクリと唾を飲む


「だ、だけど……じ、じゃあ何で雪は悲鳴を上げたのよ!」


「うっ!」


た、確かにそうだ。ポロリしてないなら、あんなに怒った理由が分からない


「それは……」


「それは!?」

「それは!?」


「た、多分……」


「多分!?」

「多分!?」


「…………ん」


秋姉は困り顔で俺の股間をちら見し、言いづらそうに呟いた


「…………朝だから」


「………………あ”」





今日の私刑



ごめんなさい

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