院のため息 2
「いやはや、とにかくそういった訳で彼女と私の間に浮ついた感情など一片もありません。だからそんな疑惑に満ちた目をしないで下さい」
宗院さんは弱わったな、といった感じで言った。
どうやら俺が別の疑惑で見ている事に気付いてないらしい
「ふむ、もっとゆっくり話して疑惑を解きたい所ですが、そろそろ休憩時間が終わります。では佐藤君、今度食事でもしながらお話しましょう」
宗院さんは腕時計を見てそう言った
「徳永が戻って来ましたら、もう帰る様に言っておいて下さい。バイト代は私が預かっておきますからと」
「はい、分かりました。バイト頑張って下さい」
「ありがとう」
宗院さんは爽やかに微笑み、ジャージの尻ポケットから軍手を取り出し、はめて振り返る。良く似合っている後ろ姿が何故か物悲しい
しかし帰って来たらって俺はいつまで待てば良いんだ?
秋姉達の姿は無く、ちらほらと帰る人達も出ている
「…………ふぅ」
「ただいまっ!」
「うわっ!?」
ため息をしていると、背後から急に首を抱き着かれた。俺の心臓に70のダメージ
「あ、綾さん?」
「はい、綾さんです。佐藤君、細く見えて意外とガッチリしてますね~」
そう言いながら、綾さんは俺の胸や背中を触りまくる
「や、やめ、あ、あひゃひゃ! く、くすぐったいから!!」
「感度は上々ですね、よしよし。では次に性感帯をば……」
そう言い腕を伸ばして来た所は!
「ち、ちょっ!? や、た、助けて~!!」
「助けてって……佐藤君って草食の人ですか?」
綾さんは若干呆れた様に言い俺から離れるが、もう遅い。てゆーか俺もびっくりだ
「……ふふ、流石俺の姉だぜ」
「え? ひっ!?」
俺の視線の先には、いつの間に居たのかジュースを三本手に持った秋姉の姿
「…………」
「ち、ちがいますよ? 虐めてませんよ? ちょっとからかっただけですよ?」
「? ……はい」
秋姉はキョトンとし、首を傾げながら綾さんにジュースを渡した
「はい?」
「……お仕事、お疲れ様」
微笑む秋姉、いや天使
「あ、ありがとうございます……あ、これ、私の好きなドリンクです」
「……よかった」
微笑む天使、いや女神
「うぅ……負けた。何だか良く分かりませんが、とにかく負けたぜ力石です」
「母ちゃんと気が合いそうですね」
ネタが分かる俺もどうかと思うが
「スーパー〇ァミコンで出た一作目の力石って、凄く強くないですか?」
「アッパーをかい潜ってボディか、スウェーでかわしてフックでも打ってれば倒せるんじゃないですか? ……いや、知りませんけどね」
「てゆーかハリマオ強すぎません? 必殺技当たらないし……」
「基本的に上パンチで適当に打ってれば倒せますよ。……いや知りませんけどね」
「私、どちらかと言うとマゾなのですが、佐藤君ならどう責めてくれます?」
「そうですね、先ずは目隠しをって何を言わせるんですか!?」
「なんでも答えてくれるからつい……」
顔を赤らめて恥ずかしげに言うが、全く初々しさが無い
「…………」
「あ、ごめんよ秋姉。ジュース持たせたままにしてしまって」
慌てて秋姉からジュースを受け取る
「……ん、仲良し」
秋姉は俺にジュースを渡し、嬉しそうに微笑んだ
この微笑みだけで俺は力石と戦える
「ふ、罪作りな女神様だぜ」
俺のハートをノックアウトだ
カシュッとプルドックを開けて、おもいっきり
「ブフッ!?」
噴き出した!
「ゴホ! ゴホゴホ!」
な、なんだこの臭い飲み物は!?
「だ、大丈夫?」
背中をさすりながら、ハンカチで俺の顔を拭く秋姉
「う、うん大丈夫。ちょっと器官に……ゴホ、ゴホ」
咳込みながらジュースを見てみると
「け、健康野郎ドクダミ茶(炭酸入り)だと……」
な、何故炭酸を?
「うん、やっぱりキレがあって美味しい。中々売ってないんですよね、これ」
こんなに美味しいのにと綾さんは残念そうに言い、一気に飲んだ。……化け物め
「ご馳走様でした。私、雑巾取って来ます」
そう言うと綾さんは素早く何処かへ、すっ飛んで行った
「……私もハンカチを洗ってくる」
「ご、ごめんよ秋姉。また迷惑掛けて」
「……平気」
秋姉はニコッと笑い、早足で化粧室へと向かっていった。
そんな秋姉を濡れた服で濡れた床に立ちながら見送る俺
「うぅ……」
情けないぜ