第73話:夏の白雪姫
「大変よ〜」
日曜日の昼過ぎ。いつものように何処にも出掛けず、あれ引きこもりですか? って感じの俺の耳に慌てた母ちゃんの声が響く
「……なんだ?」
気にはなるが、見に行くのも面倒臭い。此処は一つ様子見だ
「どうしたの? お母さん」
お、雪葉が行った。流石雪葉、いい子やな〜
「今日の夕方、公民館で子供達のお遊戯会があるのよね〜。その催し物の一つで劇団員による演劇があるのだけど〜、急な予定が入ってしまったらしくてキャンセルになってしまったの〜。も〜母さん焦っちゃう」
焦っている割りにはなんともノンビリした説明口調だ。
そしてどうやら俺とは何ら関係なさそうだな、さてゲームでもやるか
「と、言う訳で〜。代役お願いね、恭介〜」
あれ、関係あったよ!?
呼ばれてしまっては仕方無い。俺は渋々と部屋を出る
すると、待ってましたと言わんばかりの笑顔な母ちゃんが、雪葉と一緒に廊下で待機していた
「うっふっふ〜」
俺の顔を見て、嫌な笑い方をする母ちゃん
「…………なにさ」
「王子様役、宜しくね〜」
「王子様!?」
一体何をやらせる気だ、この母!
「白雪姫よ〜」
俺の心を呼んだのか母ちゃんは言った
「白雪姫ぇ?」
リンゴ食って寝た、アホなねーちゃんの話か
「すっご〜い! お兄ちゃんが王子様なんだぁ」
雪葉は目をキラキラさせ、俺を見上げる
「良いなぁ雪葉お姫様やりたいなぁ」
雪葉はチラチラと母ちゃんを見るが、その母ちゃんはちょっと困った顔をする
「ごめんなさいね〜雪葉じゃ少し背が低いのよ〜。だからお姫様は〜」
秋姉か!? てか、お姫様役なんて、秋姉以外あり得ないだろ! やったぜ!!
「夏紀にお願いするわ〜」
「それじゃ僕は宿題がありますので、夜中まで図書館に行ってきます」
俺は早足で玄関へ
「無事終わったら、みんなでお寿司食べに行きましょ〜。マグロの握り一貫2000円するのよね〜」
「姫を迎えに行って来ます」
「お願いね〜」
母ちゃんの声に頷き、俺は白雪姫が眠る二階へと向かった




