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秋の幸せ 3

PM 21:25


ちゃぷん。ギュ、ギュ……


「う……むぅ」


額に冷たい感触。俺はまだ生きているのか?


「……ごめんね」


秋姉?


目をうっすらと開けると、秋姉が泣きそうな顔で俺を見詰めていた


「あき……ね」


またそんな顔をさせてしまったね


おぼろ気な意識の中で、俺は四年前にも見た事を思い出す



四年前、秋姉が中学生の頃。一度だけみんなの前で泣いた事がある。 

 それは家庭科の授業参観中に先生から怒られたからだ


ふざけているなら作らなくて良い、いつもいつも馬鹿にしているのか。それがその時に言われた罵声


授業参観で母ちゃんに食べてもらおうと前日から練習や用意をしていた秋姉。ふざけて作る訳が無い


その事を知っていた母ちゃんは、どうやってやったのか僅か数分で授業参観に来ていた親御さん達を味方にし、あの人嫌ねと~とか井戸端会議を開く。そして穏やかに、しかし確実に教師を追い詰めていった

 実に陰険ではあるが、グッジョブ母上と言わせて頂こう


しかし、秋姉はその時に教師を庇う。そして、気丈にも後片付けをしっかり終わらせ、皆の前でごめんなさいとあやまった


秋姉が泣いたのはその夜の事。


『いつも酷い料理を食べさせていたんだね、ごめんね』


ぽろぽろと涙を流す姉を見て、俺はどんな料理でも食べる事を誓う


そして秋姉の努力は始まった


勉強と部活の練習時間は削れないから、睡眠時間を削って料理の修行


その甲斐あって、料理の技術はかなりのレベルへとなった。しかし! しかし秋姉は工夫と言う恐ろしい技術に迄目覚めてしまったのだ!!


例えばだ、例えば牛丼を作るとしよう。醤油と砂糖、ミリン等を使ったタレに、玉ねぎをコトコト煮込み、柔らかくなったところで牛肉を煮る。なんとも単純な料理である


しかし秋姉は、そこに何故かケチャップとオレンジジュースを入れる。何故か? 俺が聞きたいわ!


だがそれでも昔よりは食べれる物が出てくる。昔は本当に酷かった……


とにかくそんなエピソードがある訳で、俺達家族は秋姉の料理をなるべく受け入れようと紳士協定を立てたのだ


そして少しずつ秋姉を誘導し、最終的には普通の料理を、と言う五年を見通ししたプロジェクトを作成。現在に至る

 因みになるべくの基準は俺が決めている訳なのだが……


「……あ、秋姉?」


段々と意識がはっきりし、今の状況に気付く。どうやら俺は自分の部屋のベッドで看病されているらしい


「……大丈夫?」


秋姉は心配そうに聞いた


「う、うん」


「……良かった」


ほっとした様に、だけど悲しそうに言う


「……ごめんね」


「え!?」


つ、遂にバレてしまったのか? なら、今まで嘘を付いていた俺に落胆して……


「お肉……大きすぎたんだよね。喉に詰まったって………」


「へ?」


「ん、……姉さんから。……ごめんね、もっと小さく切るべきだったね」


秋姉は俺の額に乗る濡れタオルを変える


「あ、ありがとう」


ふ、借りは返したわよ?  なんて言ってそうな姉の姿が浮かぶぜ


「美味しくてさ、慌てて食べた俺が悪いんだよ。……いつもありがとう、秋姉」


「……私」


「え?」


「お礼を言うのは私の方。みんなが私の作るご飯を食べてくれる、貴方が美味しいと言ってくれる……すごく幸せ」


秋姉は本当に幸せそうに微笑んだ。泣きたくなるぐらい優しい顔で




今日の幸せ


母>>秋>>俺≧雪≧夏≧春


「で、でも秋姉。ブルーハワイはちょっと違うと思うなぁ」


「ん、次はココアパウダー。……アクセントにこんにゃく。秘密だよ?」


「…………」


続かそう


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