第72話:秋の幸せ
台風の上陸に伴い、休校となった六月十日。その日は、どんよりと曇った空と同じ様に、我が家も朝から雲行きがおかしかった
AM 07:35
「……ん? おはよう夏紀姉ちゃん」
リビングへ行くと、夏紀姉ちゃんがテーブルの椅子に座っていた。珍しい
「ええ、おはよう」
「今日は大学は休み?」
「さぁ? やってるんじゃないの? あたしは行かないけど」
「…………そう」
相変わらず適当な女だ。絶対嫁にはしたくないタイプだな
「……あんた今、ふざけた事を考え無かった?」
「い、いいえ、別に」
無駄に勘も良いし
刺す様な視線から目を逸らすと、テーブルに乗っているシャケが目に入った
「き、今日の朝はシャケだ~。結構好きなんだよね~」
「まぁ良いわ、いただきます。……ブハっ!?」
夏紀姉ちゃんはシャケを食い、いきなり噴き出しやがった!
「な、なんだよ? 汚いな!」
「し、シャケを食べてみなさい」
「何を言ってるんだか。さてと、いただきま~す……ブハっ!?」
同じリアクションをしてしまう
「てか一体なんなんだ、このシャケは? 見た目は普通なのにゴムの味と食感がするぞ!?」
「…………おはよう」
未知の食べ物に驚愕していると、キッチンへ続くドアが開き、そのドアから犬の足跡がプリントされたエプロンを付けた秋姉が、お皿を持って出て来た
「…………ああ、そう」
夏紀姉ちゃんが遠くを見つめる
「お、おはよう秋姉。母ちゃんはどうしたの?」
「……隣町のデパート。特売があるって朝早くから」
「台風が来てるって言うのに……」
天すら母を止める事が出来ないのか!?
「じ、じゃあ、この朝ご飯は……」
「…………ん」
秋姉はコクンと頷く
「…………サラダ」
秋姉は手に持っている、お皿をテーブルに置く
「あ、ありがと……う」
サラダとは紫色をしている物だっただろうか?
「……もう一品」
そう言った秋姉は再びキッチンへと向かって行った
「……殺る気よ、あの子」
「…………」
AM 10:30
何と無く喉が渇き、牛乳を取って来ようとリビングへ行くと、秋姉がメモを片手にクッキング番組を見ていた
「……ん」
メモを取り終え、よしっと頷いた姉を見て、俺は神を呪う
「あ……お昼はチャーハンに挑戦」
ドアの前で固まってしまった俺を見付け、秋姉は決意を表明した
AM 11:20
「……良い風だ」
台風が通り過ぎ、雲一つ無い快晴となった昼前。 俺は窓を開け、爽やかな空と風を楽しむ
コンコン
部屋のドアを叩く軽いノック音
「どうぞ、秋姉」
僅かな間の後、ドアはゆっくりと開く。よし、やっぱり秋姉だ
「どうしたの?」
「ん、休んでいる時にごめんね。……お洗濯、汚れた物ある?」
「ううん無いよ。手伝おうか?」
本当はあるが、秋姉に汚れた物は洗わせられないぜ!
「……ありがとう。でも大丈夫。ゆっくり休んでいて」
優しく微笑む秋姉。俺はこの微笑みだけで、三ヶ月間同じ服を着れる
「……それじゃ、何かお洗濯する物が出来たら言ってね。……遠慮は駄目だよ?」
「う、うん」
見透かされてるかな、こりゃ