Kの悲劇 2
《……さ、帰りましょう春菜、雪》
《ああ……》
《お兄ちゃん……う、ぐす……》
《雪……あたし達家族は無敵よ! 今回の事だって、いつかきっと笑い話になるわ》
二人をぎゅっと抱きしめる夏紀姉ちゃん。
感動的な音楽が鳴り始め、彼女達に応援のFAXをとテロップが流れた
《な、なんと感動的な光景なのでしょうか。僕は今、感動を自覚しています! 日本もまだ捨てたもんじゃない!!》
「…………」
俺は日本を捨てたいですよ
「…………ん?」
竹刀を持ったポニーテールの人が、画面を素早く通り過ぎた。今のは……
《あ! アキ!!》
画面の外に向かい、夏紀姉ちゃんが呼び止める
《…………なに?》
カメラは声の先を追って秋姉を写した。凄くめんどくさそうな顔で夏紀姉ちゃんに近づいてゆく
《アキ、驚かないで聞きなさい。遂にあのバカが本性を……》
《あのバカ?》
《あのバカ、あたし達の下着を盗んで枕に……。でも責めては駄目よ。確かにあたし達の弟は道を踏み外した変態だわ。だけど、それでもあいつはあたし達の大切な家族。暖かく見守って》
《……何を馬鹿な事を言っているの、姉さん?》
《うっ》
「うっ」
あ、秋姉が怒ってる?
《あの子はそんな事しない》
単純明快な一言は、絶対的な信頼が含まれた一言だった
「あ、秋姉……」
テレビ画面がぼやけて見えないぜ!
《……そうだな! 兄貴はバカだけど変態じゃないもんな!》
「ふ、春菜よ」
バカは余計だぞ
《うん、そうだよね! お兄ちゃんは雪葉に興味津々だよ!》
「ふふ、雪葉の奴」
その発言はヤバイぞ
《……そうね。あたしに夜ばいをかけようとしたり、下着を脱がそうとしたり、お風呂を覗こうとしたのは、あたしが魅力的過ぎるからであって、変態だからじゃ無いわよね》
「あっはは、夏紀姉ちゃんめ」
どこまで俺を追い込む気だこの女は!?
《ん。……私、下着盗られた事無いもの》
「…………」
ま、まさかそれが信頼の理由なのですか姉様……
《素晴らしい!》
「うお!?」
突然テレビから野太いオッサンの声がした
《か、数々のアイドルを育て、プロデュースした番組全てに成功し、長者番付とかでも一位とかでつか居たの? って感じだけど、とにかく凄い、そいつが動いた~!!》
グラサンをかけたとにかく凄い初老のそいつは、グラサンを外しながら夏紀姉ちゃんに近寄り、ポンっと両肩に手を掛けた
《君達を芸能界へスカウトしたいじゃん? 十億で》
高っ!?
《無理ね》
パンっと両肩の手を払い、両腕を組みながらプロデューサーを見下ろす夏紀姉ちゃん。払われたプロデューサーの目が潤んでいるのはきっと、太陽が眩しいからさ
《ど、どうして……君はどうだい?》
《……………無理》
《君は?》
《あ~無理無理》
《君は!?》
《無理だよ! だって》
プロデューサーをしっかりと見据える四人。そして俺の家族達は一斉に言った
《兄貴と遊ぶ》
《あのバカをいたぶる》
《お兄ちゃんと一緒の》
《……あの子の世話する時間が……》
《無くなるから!!!》
重なり合う三人の声。よく分からんが俺は、結構愛されているらしい…………あれ? 三人?
《…………無くなる》
あ、遅れたんだ……