第70話:Kの悲劇
70話記念。全員集合予定です
悲劇は水曜日に始まった
事の起こりは昨日。時刻は五時半
学校から真っ直ぐ帰宅した俺は、ソファーにねっころがりながら柿の種を片手にバラエティー番組を見ていた
そのバラエティー番組の目玉企画として、こんなコーナーがある
【街で見付けた美少女】
可愛い子に簡単なインタビューをすると言う、単純極まりない企画だが、生放送であるこの番組には独特の緊迫感があり、その緊迫感の中で可愛い子達ばかり見付けてくるので、中々好評だったりする
ぶっちゃけ俺も嫌いでは無い。秋姉より可愛くないじゃん? むふふ、とか言いながら優越感に浸るのが好きなのだ
気持ち悪いって? ほっといてくれたまえ、所詮俺は警察からロリコン扱いされる変態なのさ(根に持ってる)
だがこの番組、基本的には面白くない。暫くぼーっと見ている内に、いつの間にかうつらうつらとしていた
「ただの姉好き……むにゃむにゃ」
《それじゃ好きな男の子のタイプは?》
…………ん? 始まったか。さて、今日の美少女は
《お兄ちゃん!》
「ぶっ!?」
雪葉!?
ソファーから転げ落ち、慌ててテレビを見ると、マイクを持った若手お笑い芸人が雪葉にインタビューを行っていた
《へ~成る程ね~。それじゃカッコイイと思う人は?》
《うん、お兄ちゃん!》
迷い無い一言だ
《なるほど~。じゃあ嫌いなタイプは?》
《ん~、お兄ちゃんと仲良く出来ない人かなぁ》
《本当にお兄ちゃんの事が好きなんだね~。もう聞かなくても良さそうだけど、じゃあ最後に結婚するなら誰?》
《お兄ちゃんっ!》
《お兄ちゃん好きの雪葉ちゃんでした~。ありがとね~》
「………………」
何も言えず、しばし呆然としてしまう
俺は白昼夢を見ていたのだろうか? 雪葉がテレビに出るなんて……
《さ~て、次の美少女を捜しに……ん? 凄い美少女発見!!》
《ん~? あ! 春菜お姉ちゃん!!》
《お、雪葉! 何やってんだ?》
《よく分からないけど、アンケートだって》
《ふ~ん。あ、デパートの食い放題行ってくるけど、雪葉も行くか?》
《もうすぐ夕ご飯だよ、春菜お姉ちゃん》
《ただのおやつだよ》
「…………」
家でする様な、ごく普通の会話がテレビから流れている。こんなもんが全国のお茶の間に……
「此処は……駅前?」
背後の道路から、二人が居るのは恐らく駅前だと判断する。
もう間に合わないかも知れないが、俺も行ってみて……ん?
今、二人の後ろを通り過ぎた車はどこかで見た様な……
《あれ? 夏紀お姉ちゃん?》
やっぱり
雪葉の言葉にカメラは夏紀姉ちゃんの方を向き、またまた凄い美女が、なんだと興奮した様にアナウンスする
しかし車から降りてカメラへ近付く夏紀姉ちゃんの顔は、険しい
《春菜!》
《は、はい!》
《あいつは一緒!?》
《あ、兄貴の事?》
《そうよ!》
《い、一緒じゃ無いよ。も、もう家に帰ってるんじゃ……》
《家ね…………待ってなさいよ》
夏紀姉ちゃんは底冷えする恐ろしい声で呟いた
「な、なんなんだ?」
身に覚えは全く無いが、明らかにキレている
《ど、どうしたんだ? 兄貴が何かしたの?》
《……これを見なさい》
そう言い、夏紀姉ちゃんは携帯を春菜に渡す
《ん? 日記かこれ? ええと……6月4日火曜日、姉ちゃんの裸を見てやったぜ、ぐふふ。相変わらず良い乳してまんな~……なんだこれ?》
《インターネットで公開されている、匿名の日記よ。あたしも今日、友達に聞いて知ったんだけど……あいつよ、それ》
《え!? ……五月二日姉のパンツを盗んだぜ、被ってみたら頭にジャストフィット! …………ほ、本当に兄貴なのかこれ?》
《……信じたく無い気持ちは分かるけど……これを見れば分かるわ》
《四月二十日、親父が居なくなったぜ。これで俺の天下だ! ぐふふふ。二人の妹達には興味無いが、一番上と二番目の姉ちゃん達は最高や! 目標は二人のパンツで枕と布団を作る事。それまで帰ってくるなよ親父~》
「何も分からねぇよ!」
分かるのはそいつが、変態だって事だけだ
《あ、兄貴……》
「なんでガッカリしてるんだお前は!?」
《……あたしが悪いのかもね。あいつがこんなになるまで気付けなかったのだから》
「俺じゃない、俺じゃないからそれ!!」
《お、お兄ちゃん、雪葉に興味無いって……》
「そこ泣く所じゃないだろ!?」
《な、泣くなよ雪。わ、私も泣きたくなるじゃないか……》
「だから何で無条件に信じるんだよ!?」
《……あんた達。あんた達はあたしが守るわ。そしていずれ罪を償い、帰って来るあのアホを暖かく迎えてあげましょう》
「綺麗にまとめるなよ! てか、逮捕決定!?」
《……生放送中ですが、大変な事になってしまいました。今日は番組内容を変更し、変態を家族に持ってしまった美少女達の悲劇と、現代に生きる変態の心の闇を》
「大きなお世話だよ! つか何なのこれ!?」
悪夢でも見ているのか俺は