第10話:雪のかくれんぼ
「お兄ちゃん、雪葉かくれんぼしたい!」
戦いはそんな言葉で始まった
08:25
「かくれんぼ? かくれんぼねぇ」
高校生にもなって、やる事だろうか?
「また今度な」
「う〜最近お兄ちゃん、遊んでくれない!」
「なら家で遊ぼうぜ。軍人将棋買ったんだよ、昨日」
「やーだ! かくれんぼしたい!!」
「そうだねぇ、もう少し雪葉が大きくなったらやろうねぇ」
「……ぐす……お、お兄ちゃん雪葉の事、嫌い?」
「かくれんぼ最高ォー! やるぞー!! 」
09:40
近所にある市立公園。日曜日だけあってそれなりに人が多いが、公園の面積がとても広いので、そんなには気にならない
そんな公園で俺と雪葉は、手を繋ぎながら雪葉の友達を待っていた
「あ、みんなだ! お〜い」
雪が呼ぶと、まっ先に走って来たのはジャージ姿の子
「雪! 雪の兄ちゃん! おーっす!」
「おーっす!」
「よう、美月! 今日も元気だな!!」
相変わらず元気な子だ。見ているだけでこっちも元気になる
続いて来たのは、可愛らしい服を着た子だ
「こんにちは、雪ちゃん」
「うん、こんにちは」
「こ、こんにちは」
「……ひっ!?……ど、どうも」
「は、はい。なんか色々すみません」
相変わらず警戒している鳥里。誤解はいつ解けるのだろうか……
次に来たのは半ズボンに、シャツ、帽子と男の子の様な格好をした子だ
「やあ雪」
「うん、風ちゃん」
「そしてお兄さん」
「よう、風子」
「ふふ」
そして最後に来たガキ
「こんにちは、雪」
「うん! 花梨ちゃん」
「それと…………ふん!」
「けっ!」
俺達は顔を背け合う
「お兄ちゃんと花梨ちゃん仲悪いのかな……」
「心配いらないよ、雪。 二人とも照れているだけだから」
「違う!」
「違う!」
「ほらね」
「わぁ、仲良いんだ〜。よかった!」
無邪気に笑う雪葉に、俺達は毒気を抜かれた
「…………風子、後で覚えてなさいよ」
「分かったよ、花梨」
風子は花梨のガンを、アッサリとかわす。さすがに役者が違うな、ちょっとカッコイイ
「……ふ、ガキと張り合っていてもしょうがない。許してやるよ、花梨ちゃん。はっは」
俺は、風子の様に大人の余裕を見せる為、花梨の頭を馬鹿にするようにグリグリ撫でた
「〜〜っ! そ、それはどうも!!」
花梨が俺の足を踏む
「ぐっ! ふ、ふふふ」
「あ、あはは、あははは」
笑いながら睨み合う俺達を雪葉は嬉しそうに見ていた
10:02
「じゃーんけーんぽい!」
六人でするじゃんけん
俺だけパーを出す
「あら、あんただけパーなんだ」
花梨が含み笑いをした
「……………」
「あーいこでしょ!!」
数回のじゃんけん。結局俺が負けた
「ふふ。それじゃお兄さん頑張ってね」
「ど、どうも……」
「お兄ちゃん、またね!」
「うっひゃー! 隠れろ隠れろ!!」
「ふん。ま、せいぜい頑張りなさい」
「……花梨、俺はお前を一番最初に見付けてやる」
「よ、呼び捨てにしないでよ!」
そして皆、それぞれ隠れに行った
10:07
「九十九、ひゃーく」
俺は百数え、目を開ける。いよいよかくれんぼのスタートだ
さてかくれんぼ。当たり前だが皆の姿は無い
「結構広いからな」
かくれんぼは基本的に捻くれている奴ほど近くに隠れる傾向がある様に思える
それで言うと、一番捻くれてる花梨は直ぐ近くに居そうなものだが……
俺は直ぐ後ろの、人が隠れられそうな茂みを掻き分けてみる
「まぁ、いくらなんでもいる訳……」
茂みの中で花梨と目が合う
「……………何よ」
「…………お前、捻くれてるなぁ」
「な、何よ!」
10:12
「さて、アホな子は見付けたし……」
「誰がアホな子よ!!」
「他の子は何処だろう」
俺は地面に足で円を書き、花梨をその中へ入れてから探索に向かう
広い公園内。隠れても良い範囲は約、100メートルとしている
その100メートル以内にあるのは展望塔と、花畑、木々に温室それと管理室
一先ず俺は、花畑の方へと向かう
花畑はチューリップやチューリップ、チューリップなどの沢山の花がってチューリップ以外の花分からねーよ
「……花畑って結構隠れ易いかもな」
花畑は子供がしゃがめば見えなくなる程度の高さがあり、様々な色が目を錯覚させる
此処を捜すのは結構骨だなぁ
一回りしたら別の所を捜そう
「………」
「……………ひっ……」
「………………」
俺は無言で、今来た道を戻る
「!……ぅ…ぅ……」
「………み、見つけましたよー鳥里さん」
「あっ! い、いや、やだぁ!」
「…………と、とりあえず始めに居たとこで待っててな」
そう言って俺は逃げ出す
なんだかもう泣きたくなってきた
10:28
その後、温室や木々の間を調べてみたが残りの連中が見当たらない
俺は始めの場所へと戻る
「いつまで私を待たせる気よ!? このマヌケ!」
クソガキの第一声だ
「仕方ないだろ、公園広いんだし簡単には見付からないって」
「いい歳なんだからもっと頭を使いなさいよね!
いい? 残りは風子と雪と美月。その中で多分、風子は常に鬼が見える場所にいるはず」
「鬼が見える所?」
「そう。相手の視線を気にせず、安全に行動を観察出来る場所。要するに、高い所ね」
「展望塔か!」
このガキ、侮れねぇ!
「次に美月。あの子の性格を考えると、あの子は同じ場所で隠れる事はしないはず。だから風子を見付けた後、今度はあんたが上から観察しなさい。うろちょろしてるから」
「な、成る程。……それで先生、うちの妹は何処でしょうか?」
俺はこのガキ、もとい先生のお言葉を待つ
「…………雪は」
「雪は!」
「あ、あんた自分で考えなさいよね! 妹でしょう!?」
「ま、まぁそうだけど……」
あいつの性格か。あいつは甘えん坊で泣き虫でさみしがりや……あれ、良いとこ無くね?
いやいや動物や花が好きな優しい子でもある。って事は花畑か温室か? 一応、捜したんだけどな
「あの子、時折予想もつかない事するからね……」
ため息混じりに花梨は呟いた