月のわんこ 2
「と言う訳で一緒に買い物行きましょ~」
何が、と言う訳なんだろうか?
「うん、良いよ」
突然過ぎる誘いにも関わらず、美月は承諾してくれた。なんて良い奴……
「少し遠回りになるけど大丈夫? タロ」
連れている犬に美月が話し掛けると、タロと呼ばれた犬はピコピコと尾を振る
「うん! それじゃ、行こ! 兄ちゃんに雪のママ!!」
「レッツラ・ゴ~」
「…………」
本当40代の人間だよね母ちゃんって
「疲れたら抱っこしてあげるからね」
歩きながら生暖かい目で母ちゃんを見ていると、美月がタロに優しく声を掛けた。
随分気を使っているんだなと、感心して見ていたら、その理由に気付いてしまう
タロの白い毛は所々が薄くなっていて、足取りも頼りない。口は開けっ放しで、よだれが垂れている。老犬なんだ……
「……可愛いなコイツ。種類は何て言うんだ?」
「マルチーズ! タロを褒めてくれてありがと、兄ちゃん」
美月は自分が褒められたかの様に喜ぶ
「お前も可愛いぞ~、美月」
そう言いながら、美月頭をクシャっと撫でる。相変わらずサラサラしていて、撫で心地が良い
「本当に? ……兄ちゃんに褒められるのって、なんだか凄く嬉しい」
撫でられた美月は、憂いを帯びた大人っぽい表情で微笑んだ
「…………」
ぽかーん、としてしまう
「……どうしたの、兄ちゃん?」
「……み、美月さん……ですよね?」
「え?」
元気まるだし脳天気って感じだった美月が、こんな表情をするとは……
「女の子は大人になるのが早いのよ~」
静かだと思っていたら、いきなり変な事を言い出しやがる
「ウ~~ワン、ワン!」
「何故吠える!?」
「あ、駄目だよタロ! ごめんね兄ちゃん」
「い、いや大丈夫だけどさ」
俺、犬好きのに……
「タロちゃんは美月ちゃんを守っているのね~。でも安心して~、この子の好みは年上だから~」
「人の好みを勝手に決めないでくれません?」
俺の理想はあくまでも姉(優しい方)であり、年上が好きと言う訳では無い
「……そうなんだ」
美月が沈んだ声で呟いた
「……どした?」
「え? な、なんでもないよ、兄ちゃん!」
「ん? そうか?」
良く分からんが、とりあえず、俺をずっと睨んでるタロを宥めてはくれないだろうか