第66話:月のわんこ
「デートしましょ~」
火曜日の夕方、学校から帰った僕に母が素っ頓狂な事を言ってきやがりました
「え? 嫌だよ」
学校から疲れて帰って来たってのになんで母ちゃんとデートせにゃあかんのだ
「今日、北海道の知り合いから毛蟹が届いたのよね~」
「行きましょう、母様」
「あら~うれし~」
そんなこんなで私服に着替えて、母ちゃんとお出かけだ
家を出ると、斑雲の赤い空。明日は雨だろうか
「で、一体どこに行くのさ?」
「駅裏のスーパーよ~。タイムセールで卵がお一人様一パック20円~」
「安っ!?」
価格破壊や!
「今日は牛丼と卵とじよ~」
「やったねママ、明日はホームランだ」
十代には分からないネタを言いつつ、駅前へとたどり着く。
デパートぐらいしか大きな建物が無い駅前は、相変わらず閑散としていて、どこと無く物悲しい
「春菜か雪葉も呼びたかったわ~」
駅裏に続く踏切の信号を待ちながら、母ちゃんは残念そうに言う
「うちは結構、卵使うからね」
2パックでは三日持たないだろう
「残念だわ……」
母ちゃんは、ふぅっと、せつなげに溜息をつく
「そんなにテンション下げなくても……ん?」
閉まった踏切の向かいに見覚えのある姿があった
「美月?」
美月(多分)は、白い中型犬の散歩をしているらしく、踏切が開くのを待ちながら、しゃがみ込んで犬を撫でている
「お~い、美月~」
「んん? ……あっ! 兄ちゃん!!」
ぴょこんと立ち上がり、ぶんぶんと手を振る美月
「やっぱり、美月だったか」
この間は何故か微妙に冷たかったが、今日は大丈夫らしい
「あら~美月ちゃん~。…………ふふふ~」
母ちゃんは細目をさらに細くし、不気味に笑った
「か、母ちゃん?」
「卵、もう一パックゲットよ~」
「…………逞しいね、母ちゃん」