夏のお兄ちゃん 2
「ふ~ん。……うふふ」
何故か夏紀姉ちゃんが妖しく笑う。こんな時、この女はろくな事を言わない
「…………ねぇ、お兄ちゃん? 私、肩凝って」
「僕は貴女の兄ではありません。どなたかと勘違いしておりませんか?」
狂暴な妹など要らん!
「……良い度胸しているわね? お兄ちゃん」
「なんでしょうか妹様」
指をポキポキ鳴らす妹には逆らえない
「分かれば良いのよ。ほら、さっさと肩を揉みなさい、お兄ちゃん!!」
胡座をかき、肩を指差す夏紀姉ちゃん
「で、では揉ませて頂きます……」
「右肩の方が凝ってるから、気合い入れて揉みなさいよ、お兄ちゃん!」
な、なんて可愛くない妹だ……
可愛くない妹の、めちゃくちゃ硬い肩を揉んでいると、秋姉が俺の後ろに来た
「秋姉?」
「……お兄ちゃんの肩、私が揉むね?」
これが可愛い妹だよ! 妹、最高!!
「あ~気持ち~。酒とつまみが欲しいわね~」
最悪だなこの妹。妹じゃなくて、オヤジじゃないんスかこれ?
天国と地獄を同時に味わっていると、廊下から母ちゃんがリビングへと入って来た
「みんなで肩揉み~? 母さんも混ぜて~」
「良いよ。それじゃ、妹よ。母ちゃんの肩を揉んであげなさい」
「こ、このっ」
「どうしたんだい、妹ちゃん?」
「わ、分かったわよ、お兄ちゃん」
「??」
俺と夏紀姉ちゃんの会話を、不思議そうに聞く母ちゃん
「今、弟と姉を交換してるんだよ」
「あら~楽しそうね~。それじゃ母さんはみんなの妹よ~」
「それは無理だよ」
「それは無理ね」
夏紀姉ちゃんと俺の声が綺麗にハモる
「そうぉ? 残念~」
母ちゃんはガックシと肩を落とし、お茶入れるわね、っとキッチンへ向かって行った
「……行った?」
「うん、行った」
「……いくら何でも妹は無理よね」
「だよね~。全く、自分の歳を考えて喋って欲しいぜ」
「ほんとよね~、若作りだけどもう四十」
夏紀姉ちゃんの言葉が止まる。その額にはいくつもの汗
「過ぎにはとても見えないわよね~、いつまでも若いし、美人だし自慢の母親よ~」
「…………もう手遅れ」
ああ、手遅れだ。俺にも分かる。ドアの向こうに何が立っているかを
…………ガチャリ
スローモーションのように扉がゆっくり、ゆっくりと開く
そして……
「……鬼」
オボンにお菓子とお茶のセットを持った細目の鬼が、眼をギラギラ光らせ立っていた。
どうやらリビングでお茶を入れるつもりだったらしい
「ねぇ、夏紀?」
優しく穏やかな声だ。まるで赤子を抱く母親のように
「は、はい」
だが、夏紀姉ちゃんの声は震える。俺の身体も!
「人には、触れてはいけない痛み(年齢)があると思わない~?」
オボンをテーブルに置いて、優しく尋ねる鬼
「ご、ごめ」
「そこに触れたら後は、も~」
拳を握り、夏紀姉ちゃんにせまる母ちゃん。夏紀姉ちゃんの目には涙が浮かび、いやいやと顔を振った
「ご、ごめんなさ」
「うめぼし~」
で、出た! 母ちゃんの必殺技!!
「う……うぎゃあああああああああああああ」
夏紀姉ちゃんのこめかみに拳を当て、ぐりぐりと押し付ける母ちゃん。
めちゃくちゃ痛いんだよなアレ……
「……しかし獣のような叫び声だな」
他人事の様に呟くと、夏紀姉ちゃんは涙目で俺を睨む
「ぐ……う、ううん。んあ、ああん!」
いや、色っぽい声を出されても……
「……さて、僕はそろそろ宿題をやろうかな」
立ち上がり、リビングを出ようとする俺の肩に、母ちゃんの手がにゅっと伸びた
「次は貴方よ~」
「………………許して」
「だ~め」
「た、助けて秋姉」
「……頑張って、お兄ちゃん」
「な、夏紀ねぇさ~ん」
「い、一緒に逝きましょう? お兄ちゃん」
「だ、誰か助けて~」
「さ~いくわよ~」
「い、逝きたく無い、逝きたく無い~。う、うぎあああああああああああああああ」
今日の妹ちゃん
秋>>>>夏>>母?
続きりん