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第7話 害虫駆除

「早っ!」

「そうだろ? 危ないから掴まっててな」


俺と少年、そしてチェリアさんはポチ丸の背中に乗って、害虫が出ると教えてもらった森の方角へ飛んでいる最中である。

それほど遠くはないが、まずは上から様子を探ってみようと考えたからだ。


「怖くない?」

「このくらい平気だ!」


少年は平気そうにしているどころか、地上を見下ろして楽しんでいる。

だが--


「大丈夫ですかチェリアさん?」

「だっ、駄目です……」


これで二度目になるチェリアさんは必死に目を閉じ、出来るだけ空に向かって顔を上げているのだ。

どうやらエルフの里では高い建物があまり無かったようで、ポチ丸の背中に乗って初めて自分が高所恐怖症だということに気づいたらしい。


「もうすぐ着くので、少しだけ我慢してくだい」

「はっ、はい……!」


高所恐怖症はすぐに克服できるものじゃ無いから、我慢してもらうしかない。

まあ、俺も後ろからチェリアさんに抱き締められてるっていう点じゃあ我慢しないとだけど。


「あそこだ」

「おおっ、確かに虫の匂いがいっぱいする! --変な匂いも混じってるね」

「変な匂いって?」


森の真上に到着し、ポチ丸の嗅覚で周囲の状況を確認し始めたが、ポチ丸は何か異変を感じたようだ。

大量発生した理由と関係があるのか?


「ほとんど同じなんだけど一匹だけ匂いが濃いっていうか、女の人っぽい匂いがするんだよ!」

「多分そいつが女王だ」

「女王?」

「ああ。 家来を連れて、木をたらふく食いに来たんだろう」


じゃあ大量発生と言うより、ただの女王の警護……?


「じゃあ女王ってヤツを倒しちゃえば終わりだね!」

「でも女王は家来達に囲まれてるから、女王にたどり着くまでが大変だぞ」


そうだよな、さすがに女王を籠の外にほっぽり出して食事させるわけ無いよな。

周りは木ばかりだし、ポチ丸の炎も使えないか……


「とりあえず降りよう。 火は駄目だから、ポチ丸は人間モードで頼む」

「了解だよゴウ!」


少年は何の話をしているのかサッパリなようで、俺とブラックドラゴンの姿をしているポチ丸の顔を交互に見ては魚のように口を開閉している。


「私は回復魔法でお二人の援護をしますね……!」

「はい、何かあったらお願いします」


チェリアさんには少年を守りながら、何かあった時には回復魔法をかけてくれるようにお願いをした。

杖による打撃技を多少は使えるそうで安心だが、油断は出来ない。


「行くぞ……っ!」


俺の掛け声でポチ丸は着陸体制に入る。

少年の腰を俺の体に近づけて離れないようにし、この少年を無傷で帰宅させることが今回の依頼の最重要事項だ。



◇◆◇◆◇◆◇



「こんなに大きかったら、数匹でお腹いっぱいになっちゃうね!」

「思ってた以上どころじゃ無いぞこれ……」


森の中に降りてみると、そこは茶色い四本足を持つ虫達の王国と化していた。

それも全て三から四歳ほどの子どもくらいの大きさで、気持ちが悪いという言葉では表現が足りないくらいだ。


「キモ……」

「早めに退治しちゃうか、俺も無理だわこれ」


槍を抜き、とりあえず一番近くを歩いていた虫を突いてみる。

こっち向いたけど攻撃してくる気配は無いな、これならすぐに終わ--


「ゴウ危ない!」

「ポチ丸っ……!?」


俺の右斜め後ろに立っていたポチ丸が、勢いよく俺を突き飛ばした。


「どうしたんだよ……!」

「ほらこれ見て、毒だよ!」


--毒?

立ち上がったポチ丸が指さす先を見ると、確かに地面に生えていた草が溶けて、土が見えている。


「口から吐いたんだよ、ビュッて!」

「とんでもない奴らだな……」


チェリアさんをチラリと見ると、杖を握っていない左手で拳を作っているので、どうやら毒を消す魔法は使えるのだろう。

だとしたら簡単だ、倒せばいい。


「吹き飛べ!」


槍の先を地面に着け、虫達の足元を薙ぎ払う。

そして浮き上がった虫達の真下から、空に向かって思い切り槍を振り上げて飛ばす。


体内に毒が含まれているのなら、刺したりして毒が出てきたら大変だからな。 周りの自然も守るために、安全策でいこう。


「燃やしてくれポチ丸!」

「分かったよゴウ、任せといて!」


ポチ丸は胸に手を当て魔法陣を足下に出現させると、頭と四肢をブラックドラゴンの姿に戻した。

そして俺が浮かせた虫達を青い炎のブレスで焼く。


「これがドラゴン……」

「ええ、私も初めて見ました……!」


チェリアさんは炎のブレスを恍惚の表情で、その後ろに隠れていた少年は恐ろしげに見ている。

塵一つ残さない炎のブレスが辺りに燃え移らないよう、俺は槍を大きく振って風を起こす。


「次行くけど、大丈夫か?」

「大丈夫だよ! この虫達、すぐ燃えちゃうから!」


さり気なく恐ろしいこと言ったな。

まあ金属さえ溶かすほどの熱を持つ炎だから、どんな物でもすぐ燃えるのは当然だけど。


「じゃあ頼んだ!」

「スピードアップしちゃっても良いよ?!」


その言葉を飲み込み、俺は五匹ほどの虫の足元を払って宙に浮かせ、追い討ちをかけるように空へと吹き飛ばす。

そして空に飛び上がった虫達をポチ丸が焼く。 まさに連携プレー。



◇◆◇◆◇◆◇



「あと半分くらいだけど、ポチ丸大丈夫か?」

「ぜんっぜん平気!」


数十分は経っただろう、俺達の元に集まってくる虫の数も減ってきて、木に登って葉や幹を齧っていた奴らが加勢にやって来るようになった。

だが、虫達を指揮しているであろう女王は一向に姿を見せない。


「どこかに隠れているんでしょうか……」

「オイラこれ持ってきたんだけど、使ってみる?」


チェリアさんと少年が何かを始めたようだ。

--そっちを手伝った方が良いか?


「あまーい匂い……」

「おいちょっと、ポチ丸?」


ポチ丸がドラゴンの姿に戻り、人間でいる時の倍の嗅覚に戻っているのもあってか、後ろで何かを始めたチェリアさんと少年の元に歩み寄る。

虫達はまだ寄ってくるのに、ポチ丸の炎が無ければ対処出来ない……!


「チェリアさん、何をしてるんですか!?」

「ダンバ君が持ってきてくれた蜂蜜を塗っているんです、もしかしたら女王さんが寄ってくるかと思いまして」


チェリアさんは黄色い中身の瓶を持ち、少年のハケで木に何かを塗っている作業を手伝っていた。

蜂蜜? そもそもダンバって誰?


「オイラ、蜂蜜に虫が集まってきてる所を前に観た事あるんだ!」

「いやいやダンバ君、見たって言っても、どうして蜂蜜なんて常備してるんだよ!」


ツボの大きさは小さめで、おれのような十七歳の青年にとっては一口で終わるような大きさだ。

常備できなくは無い大きさだが、どうして?


「父ちゃんが持ってろって煩いんだよ!」


ダンバ君はすぐに蜂蜜を塗り終え、チェリアさんからツボを受け取ると木から離れた。

これですぐに効果があれば良いけど--


「おっきい音…… 何か飛んできてる……」


蜂蜜を舐めようと塗った木に歩み寄っていたポチ丸が何かの音に気づき、口を半開きにして空を見上げる。


「何かって?」

「羽の音がするから、虫とか?」


えっ、虫?

そう思った時にはもう遅く、耳をつんざくほど大きな羽音が空から聞こえ始め、青々と晴れていた空も茶色一色に染まっていた。


「凄いなこの蜂蜜、さすが父ちゃんが配合した奴だ」

「どんな配合すればこうなるんだよ……!」


でも好都合だ、虫達は飛んでるからポチ丸の炎で焼き尽くしちゃえば……!


「バリア貼りましょうか?!」

「お願いしますチェリアさん。 チェリアさんとダンバ君が入れれば大丈夫ですから!」


チェリアさんがバリアを貼れるとは思っていなかったが、こちらからすれば好都合過ぎる。

ダンバ君を引き寄せて呪文の詠唱を始めたチェリアさんは、どこか嬉しそうに見える。


「コンビネーションAで行くぞポチ丸」

「分かったよゴウ、火消すのよろしくね!」


虫達が蜂蜜を舐めようと、地上へ降りてき始めた。

俺は槍の先を地面スレスレに近づけて、思い切り槍を振り上げられるように握り直す。


「来いっ!」

「よっしゃあっ!」


掛け声もバッチリ、俺とポチ丸のコンディションにも異常は無い。 まさに完璧。


「おりゃあああっ!!」


ポチ丸が俺の方に走って来るので、ポチ丸が俺の槍を踏もうとした瞬間に大きく上空へ振り上げ、ポチ丸を飛ばす。


詠唱を終え、チェリアさんとダンバ君はバリアの中で俺達を見つめている。


「ナイスだよゴウ!」


空中で向かい合うポチ丸と虫の大群。

数的には圧倒的にポチ丸が不利だが、ブラックドラゴン相手に数なんて関係ない。


「グオァァァァァァァ!!」


青く輝く炎が、鋭い牙が所狭しと生えたブラックドラゴンの口から決壊したダムの如く放出される。

美しいと、この場にいる全ての生物が一瞬のうちにそう思ったほどだ。


「へへっ、やっ-- あれ?」


炎のブレスが止み、虫達は塵すら残らないと誰もが思っていた。

しかしポチ丸は虫達の大群がいたその場所を見て、唖然として言葉を失ない、そのまま地面に着地する。


「炎…… 耐性……?」

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