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第5話 ハイエルフのレア装備

「まずキミ、モンスターもいない場所で人に槍なんて向けちゃあ駄目だよ。 逮捕ね」


男はウエストバッグから手錠を出し、槍を握っている俺の手首にかけた。


「はぁ?」

「ああゴメンね、僕警察なんだよ」


ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべながら男は俺に会釈をし、恐らく手錠を開けられるであろう鍵をチラつかせ始める。

槍を人に向けてるのは確かに悪い事だけど、人から盗んだ物を転売しようとしてるコイツらこそ逮捕するべきなんじゃないのか!?


「最近の警察はいい仕事しますねぇ?」


自分が被害者だと判断され、いい気になっている男は俺を横目で見ると、馬鹿にしたような笑顔を浮かべた。

今すぐこの悪党の顔面を貫いてやりたい……!


「でしょう? そう思われる為に、最近は残業続きで寝かせてもらえないんですよぉ……」

「そりゃあ大変ですね、お疲れ様でした」


くそっ、警察って正義の味方なんじゃないのかよ!


「張り込み調査ってご存知ですかねぇ? ほら、テレビとかでよく出てるでしょ。 アレやらされると家にも帰れないんすよ」


警察と名乗った男は俺と、俺に槍を向けられ続けている男の周りを数周して、俺達の中立の位置で止まると優しく男の肩に手を乗せた。

そして俺に何故か微笑みかけたのだ。


「アンタらのおかげで娘に嫌われちゃったんだけど、どうしてくれんの?」

「ええそうで…… え?」


警察の男の力が強まり、俺に槍を向けられている男の肩から骨の砕ける音が聞こえる。


「ぐあああっ!!」

「窃盗に盗品等有償譲渡罪、ぼったくりと営業許可申請書の事項を守れてないのも追加して全員逮捕だ」


警察の男がそう告げると、俺が転売の現場を目撃した廊下から残りの盗賊達が警察の人達に拘束された状態で連れられてきた。

その様子を見ていると、警察の男が俺の手錠を外して微笑んだ。


「キミのおかげで彼らが窃盗とかもやってたの知れて助かったよ、ありがとねぇ」

「いえ、俺はただ…… そうだ、チェリアさんの装備!」


チェリアさんとポチ丸の方を向くと、チェリアさんは女性の警察官に何やら手渡されている様子だった。

笑顔を見る限り、返ってきたんだろう。


「彼女さんの為にか、いいねぇ青春じゃないか」

「そんなんじゃ無いです……!」


確かにチェリアさんは綺麗だけど、俺なんかよりもっと金持ちで優しい人が沢山いるはずだ。


「まぁキミは見たところ浮気とかしちゃう子には見えないしさぁ、好きな子には好きって言った方がいいよ? 女の子は複雑だからねぇ」

「えっと、それって娘さんの事ですかね……?」


男は呟きながら手の中にある鍵で俺の手錠を外した。

さっき娘に嫌われたとか嘆いてた気がするけど、この人の方こそ大丈夫なんだろうか。


「そうなんだよォ、愛しのナーエルちゃんがパパ嫌いって言ってきてねぇ!」


警察の男は突然涙目になり、俺に覆いかぶさって頬ずりを始めた。

どういう状況なんだこれ?


「あれ、これ公認書? 見せて?」

「えっ、ええっ……?」


俺のズボンのポケットに触れ、違和感を感じた警察の男は俺の返事を聞く前に四つ折りにした『竜騎士の公認書』を取り出して開いた。

ポチ丸以上の自由人だな、この人。


「ゴウ君とポチ丸君。 へぇ、竜騎士ねぇ?」

「今日公認書を貰ったばっかりで、仕事は明日から始めようと思ってたんですけど--」

「彼女さんに会って装備を取り返そうとしたら、こうなっちゃったと」


非の打ち所がない推理に、俺は頭を縦に振るしかない。


「ところで何か君達に謝礼をしなきゃなんだけどさぁ、何がいい?」

「謝礼ですか?」

「盗賊の逮捕に協力してくれたお礼だよぉ。 あ、この店と改装費とかでどうかなぁ?」


警察の男は公認書を、もう一枚見たことも無い紙を重ねて俺に返した。

恐る恐る開いて見てみると、その紙は--


「権利証ですか?」

「そ。 このお店ごと、君にあげちゃう」


満面の笑みを浮かべているが、腹の底では「一石二鳥だぁ」だと思ってそうな雰囲気が否めない。


「だってキミ、明日から仕事しようにも事務所とか無いでしょ? だから差し押さえするのも面倒だし、あげちゃうよぉー?」


今、思いっきり面倒だしって言ったよな!

こんなに軽くて、なんかふわふわしてる人が警察でいいのか!?


「そしたら後ろのドラゴン君の食事代もチャラだよねぇ? 嬉しくない?」

「え、ドラゴンくんの食事代?」


後ろを振り向くと、ポチ丸がテーブルの上に残っていたパンケーキを手掴みで頬張り、それをチェリアさんが目を輝かせて眺めているという、謎の光景が広がっていた。

なに手振ってんだよポチ丸のヤツ。


「あれ全部チャラになるよ、どーする?」


まぁメニューを全品頼んでたし、何なら値段も馬鹿みたいに高かったし、チェリアさんに全額払わせられないしな。


「ありがたく受け取っておきます」

「うんうんありがとねぇ、これで僕も家の天使ちゃんに会えるよ!」


警察の男は俺の頭に数回、優しく手を乗せてから出口へと向かっていった。


「お仕事頑張ってねゴウ君、バイバイ」


扉に手をかけながら振り返り警察の男がそう言うと、その後を続くように他の警察の人達も盗賊達を連れ、店を出ていく。

もちろん、俺が槍を向けていた男も一緒に。



◇◆◇◆◇◆◇



「本当にありがとうございました、ゴウさん。 ポチ丸さん」

「キラキラしてるね、このレアな装備!」

「すごく似合ってますよチェリアさん」


警察の人達が全員出ていき、ようやく落ち着いた頃にチェリアさんが装備を身につけ、返ってきたことを報告してくれた。

翡翠色の宝石が埋め込まれたチョーカーは、チェリアの首元で夕日を受けて輝いている。


「エルフの里で造られる物で、祖父の形見なんです。 本当にありがとうございました」


チェリアさんは深々とお辞儀をして、本当に嬉しそうに微笑んだ。


「チェリアはエルフの里に帰るの?」

「だからポチ丸、チェリアさん。 な?」

「チェリアはチェリアだから、チェリアで良いんだよ!」


謎のこだわり過ぎるだろ……


「実は私、家出のような形でここにいるので……」


チェリアさんは重そうな口を開き、絞り出すような声で呟いた。

理由は聞かない方が良いよな、これ。


「もしかして帰る場所が無いんですか?」

「お恥ずかしい限りです……」


困ったな、この辺りは宿が無いから野宿をせざるを得ないんだよな。


「じゃあここで暮らせば? ベッドとかあるっぽいよ?」

「え、そうなのかポチ丸?」

「ゴウの持ってる紙の後ろに書いてあるよ」


そう言われ、俺は警察の男から貰った権利証の裏を見てみる。

すると裏には酒場の構造が丁寧に記されていて、挙句の果てには家具の配置まで明記してあるのだ。


「住み込みで仕事出来るじゃないか!」

「広いねこのお店!」


これを俺達の自由にしていいって言うなら、看板を立てちゃえば明日からだって仕事ができる!


「家賃は取りませんし家事の強制もしませんけど、どうですかチェリアさん?」

「あーでも、ご飯は作って欲しっ…… むぐっ!」


俺の作る飯じゃ不満なのかよ!

いやいやそうじゃなくて、だったら嫌ですとか言われたらどうするつもりだ!


「わ、私がいても良いんですか……?」

「どうしてですか?」


俺が尋ねると、チェリアさんは何やらモジモジし始めた。


「私はハイエルフですし、また今日のような事が怒るかもしれません。 それに回復魔法しか扱えないヘナチョコで--」

「ネガティブ過ぎませんか?!」


粗めのツッコミに、チェリアさんの身体が縦に跳ねる。 とりあえず抑えろ俺。


「ですが家事は得意なので、チョーカーのお礼を少しずつ返していく形にはなりますが--」

「おっけー、じゃあ晩御飯お願い!」


チェリアさんが一生懸命話している最中に俺の横にいたポチ丸は何かを承諾し、チェリアさんの手首を掴んで、さそくさと店の中に戻っていく。


「おいポチ丸!」

「お腹空いちゃったんだもん。 一緒にいてくれるみたいだし、暗い話は止めてご飯食べよ?」


さっきメニューに載ってる料理を全部、それも一人で平らげたのは何処の誰だと思ってるんだよ……


「ねぇねぇチェリア、ステーキ食べたい!」

「お肉があれば作れますけど……」

「あっ、オークから採ってきてないや……」


オークの肉を採りに行こうと山に行っただけで、まさかハイエルフの同僚と仕事場まで入手出来るなんて誰が予想してた?

今日の出来事は俺でも信じられないよ。


「ゴウ、何してるの?」

「そろそろ冷える頃なので、早めに中に入った方が良いですよ!」


店の外見を眺めていると、ポチ丸とチェリアさんが店の入口に並んで俺に笑顔で呼びかけた。

--これが、俺の選んだ現実か。


「晩飯より先に部屋を決めないとだな」


俺を待っている二人のもとに近づき、明日から仕事場になる店の中に足を踏み入れる。


「ボクはゴウと一緒の部屋がいいなー!」

「私は余ったお部屋で大丈夫ですよ、お二人で先に決めて下さい」


人間とドラゴン、それにハイエルフが一人づつのヘンテコなパーティだが、これから楽しみだ。

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