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第4話 酒場の裏

「これも美味しいね、ゴウとチェリアも食べなよ!」

「もうお腹いっぱいだから残りは全部食べてくれよポチ丸、あとチェリアさんな?」


ポチ丸はオーダーを取っていた、いや取っていたと言うより端から端まで持ってこいと従業員に伝えたようで、俺達のテーブルには続々と食事が運ばれてくる。

勿論その膨大な量は、人間の胃袋の限界を余裕で超えているわけで。


「ドラゴンの食事量、勉強になります……」

「無理そうなら張り合わなくても良いですからねチェリアさん」


十七歳の青年である俺と、年齢は分からないがハイエルフの女性では食べ切れる気すら起こらない。

やべ、食べ過ぎて吐きそう……


「ゴウは昔から少食だよね」

「ポチ丸が食べ過ぎなんだよ…… ちょっとトイレ……」


俺はポチ丸が満面の笑みを浮かべて食事を続ける中、覚束無い足取りでトイレへ向かう。


人間の姿に変身してるって言っても元はドラゴンだからな。 まぁ人間を食べるよりは何倍もマシだ。

さて、トイレは--


「こちらはハイエルフが生息する森でしか作成されない、至極のレアアイテムでございます」

「ほほう、これはこれは……」


トイレの横にかかっている暖簾の向こうから男性二人の囁きあっているような、声の小さな会話が聞こえてきたので、そっと中を覗く。

中は煙たく、まるで奥で行われている何かを隠したがっているように思える。


気持ちの悪さなんて一瞬で吹き飛んだ。


「この辺りでは滅多に出回らない物ですので、金貨一万枚でどうでしょうか?」

「ふむ…… この装備の効果は何か付くのか?」


もしかして盗品を密売してるのか?

じゃあこの店は、表向きは酒場で裏は密売取り引き場を担って--


「そこで何をしているんだ小僧?」

「っ……!」


背後から別の大男に声をかけられ、背中の槍を抜いて構える。

威圧感のある声は、チェリアさんの装備を売ろうとしている現場の交渉を聞かれた事に危機感を覚えているようにも聞こえた。


「ほう、あのエルフに雇われたのか?」

「違う! 俺達はチェリアさんの装備を取り返しに来たんだ!」


そう言うと大男は腰に帯刀していた、薄っぺらい割に大きな刀身の大剣を抜いて俺に向けた。

ここで俺を殺る気か?


「てめぇこの槍、なかなかレアな奴じゃねぇか? 私達が代わりに売って、金にしてやるよ」

「触るなっ!」


大剣を持つ男の背後から女性が一人姿を現し槍に触れられたので振りほどくと、後ろに立っていた男に槍の柄の部分がぶつかって跳ね返ってきた。

どうやら暖簾の向こうで取引をしていたであろう男も背後から現れ、盗賊達に挟まれてしまったようだ。


「味方も飯食ってるみてぇだしよ、その槍一本で許してやるって言ってんだ。 悪い話じゃねぇだろ?」


槍か命か、好きな方を選べと言われているのか。

--そんなの聞かれるまでも無いな。


「くそっ、このガキ!」

「とっ捕まえてガキごと売っちまおうぜ!」


俺は盗賊達の質問に答えることなく、前に立っている大剣の男と女性の脛を槍で斬り裂く。

二人の脛からは血が溢れ、大男も大剣を手から滑らし、女と一生にその場にしゃがみこんでしまったようだ。 しばらくは動けないだろう。


「ポチ丸!」

「ん?」


食事をするスペースに戻るとポチ丸はまだ食事を続けていて、俺の声掛けにも骨付き肉にかぶりつきながら反応した。

何呑気な事をしてるんだよ……


「待ちやがれガキィ!」

「あれゴウ、もしかしてトイレ仲間?」

「違ぇよ! 例の盗賊だ!」


俺の言葉でハッと思い出したポチ丸は肉を皿の上に戻し、近くの濡れタオルで手を拭いてから戦闘態勢に入る。

--綺麗好きは良いことだけどな。


「待てやコラァァァ!!」

「他のお客さんに迷惑だよオッサン!」


後ろから追ってきていた男達を翻弄すべく、俺は槍の先端を禿げかけている木の床の隙間に挟み、槍に重心をかけてバク転をする。

男達の頭上に到達した地点で槍を引き抜き、一瞬で後ろに回り込むことに成功した。


「形勢逆転ですよ、チェリアさんの装備を返して下さい」


暖簾の奥にいた方の男のうなじに槍の先端を近づけ、装備を返すように促す。

さすがに殺す程じゃないし、俺の評判にも影響するから、脅しはこのくらいで止めておきたい。


「へへっ、それは無理な話だなぁ……」

「何!?」

「ゴウ、その人からチェリアさんの匂いがしないよ……!」


どういう事だ?

だって暖簾の向こうで交渉を持ちかけていた声の主は絶対にコイツのはずなのに--


「まさか、もう一人の男が既に買ったのか……?」

「思ったより頭がいいんだなぁ」


これはまずいな。

装備を買った方の男の顔は見たことがないし、何だったらチェリアさんですら知らないはず!


「終わったなぁ、ヒーローもどき?」


うなじに槍を刺されそうだというのに、男は余裕そうな甲高い笑い声を上げる。

俺もチェリアさんの装備を取り返せなかったという後悔の念に苛まれ、槍を持つ手の握力が少しずつ落ちていく。


「あれ、チェリアさんの臭いが--」

「ポチ丸さん?」


ポチ丸は不思議そうな表情を浮かべて酒場の扉の方に鼻を向け、何度も必死に匂いを嗅ぎ始めた。

すると扉が勢いよく開き--


「はーいストップね、フリーズプリーズ」


白いワイシャツに半袖のカーディガンを羽織っている、その辺を普通に歩いていそうな男が店の中にゆっくりと入ってきた。


「まったくもう、この店は前からこうなると思ってたけどさ? 何も今日じゃなくても良いじゃん」


男は取引をしていた盗賊と、その盗賊のうなじに槍を向ける俺に近づいて、溜息をつきながら独り言を言い始める。


--いったい何者なんだ?

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