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第2話 ハイエルフのプリースト

  あと数メートル先に女性がいるという辺りまで来た途端に、ポチ丸の足が止まって半回転し、俺の方を向く。

  俺の指示を待っていると同時に、いつものコンビ技を繰り出す準備をしてくれているのだ。


「やるぞ、ポチ丸!」


  俺は背中の槍を手に取って構え、平地のように開けた場所に出る。

  すると背後から金の刺繍が入った黒いグローブをはめたポチ丸が飛び出し、俺の背中に手を乗せて勢いよく上空に飛び上がった。


「あっ、あなたは……?」


  視線の先に杖を持ってしゃがみこんでいる金髪の美しい女性と、その女性を付け狙うオーク達の大群が映る。

  名乗った方が良いかもしれないけど、それどころじゃなさそうだ。


「とりあえず貴方は後ろに下がって!」

「えっ?」

「ほら上見て!」


  俺の声に反応して女性は空を見上げる。

  ちょうどその瞬間、俺の肩を利用して飛び上がっていたポチ丸が空から降ってきていた。


「ちょっとどいてぇぇぇぇぇっ!!」

「危なっ!」


  女性は人が上空から降ってきているという状況を理解出来ずに固まってしまったようで、俺はポチ丸の攻撃に巻き込ませないようにと女性の懐に飛び込んで槍の柄で優しく押し飛ばす。


「ありがとゴウ!」


  ポチ丸はグローブをはめた右手で地面を殴り、地割れを起こした。

  一体どこまで飛び上がってたんだ?


「ゴメンよ、少しだけ残っちゃった!」

「このくらい任せとけ!」


  俺は手にしている槍を強く握り直し、ポチ丸が起こした地割れの中に落ちていかなかったオーク達に向かって走り、急接近する。


「倒れろっ!」


  そして割れ目をじっと見つめるオーク達の背後から槍を大きく振って、その大きな獣の背中を切りつけた。


「晩飯の食材ゲットだね!」


  背中を切られ、前のめりに倒れていくオーク達を横目で嬉しそうに見ながら、ポチ丸が俺の背後に抱きつく。


「ああ。 少しヒヤッとしたけど、ナイスだったぞポチ丸」


  群れの半数は地割れの中へと落ちてしまったようだ。

  いや、今はオーク達から食材を集めるために攻撃をした訳では無かったから問題があるわけじゃない。


「怪我とか大丈夫ですか?」

「はっ、はい……」


  後ろを振り向いて突き飛ばしてしまった女性の安否を確認する。

  目に涙を浮かべてはいるが、ざっと見た感じ外傷も無いみたいだ。 良かった良かった。


「なんでこんな山の中に一人でいたの? お姉さん、プリーストっぽいけど」


  ポチ丸は俺の背中越しに、プリーストの女性に穴が空くんじゃないかと思うほど観察し、そう尋ねる。


「パーティを組んでいた方々に置いていかれてしまって……」

「えっ!? そんなの酷すぎるよ!」


  女性の気持ちを察したポチ丸は女性に急接近して、細くて白い手を優しく両手で包んだ。

  いや距離感な?


「私が悪いんです、私が世間知らずだったばっかりにレアな装備をチラつかせてしまったので……」


  最近増えてるって聞くからな、盗賊が一人の冒険者に声をかけてパーティを組んで、金品を奪っていくっていう事件。


「その装備は?」

「盗られたあとにオークの襲撃に遭いまして……」


  盗られて逃げられたのか、可哀想に。

  --あれ、待てよ?


「もしかして貴方は--」

「お姉さんハイエルフの匂いするね、すっごくいい匂い!」


  ポチ丸が俺の感じた違和感を言葉にしてくれた。

  人間よりも細くて長い耳が、この女性を人間ではないんじゃないかと思わせたのだ。


「ハイエルフの匂いですか……?」

「うん。 自然に近い匂いっていうかね、お花みたいな匂いがするんだよ!」


  ドラゴンは人間よりも感覚器官が優れているからな、昔から種族の匂いとかを察知して危険を促してくれるからありがたい。


「その優れた嗅覚、ドラゴンですか?」

「へぇっ!?」


  --へぇっ!?

  やっぱりこの人、人間じゃ無いのか!?


「種族の匂いを嗅ぎ分けられるというのは、ドラゴンやドラゴンと同等の種族くらいなので…… 違いますか?」


  女性の的を射ている予想に動揺して、ポチ丸は女性から手を離すと後ろに数歩下がった。

  やけに自信がありそうな彼女の目を見ると、何故か否定しなければいけないのに出来なくなってくる。


「え、えぇっと……」


  ポチ丸は何と誤魔化そうかと必死に考えているせいか目が泳いで、俺を横目で見た。


「もしそうなら、どうします?」


  俺は女性にそう尋ねる。

  もはや賭けに等しいこの質問の答えによっては、俺達は街へ全速力で逃げなければいけない。


「泣いて喜びます」

「へぇ、泣いて喜ぶ…… は?」


  しゃがみこんでいた女性は突然立ち上がって、俺とポチ丸に急接近してきた。


「だってドラゴンですよ!? 伝説上の神聖な生き物で、大きな翼を広げて空を飛ぶ姿は芸術作品のようだって、長老が仰っていたんですもの!」


  突然のハイテンションに、俺とポチ丸は目と口を丸く、大きく開けるしかなかった。

  殺すとか言われると思ったじゃん……


「それで、本当にドラゴンなんですか!?」

「ゴウ……?」

「別に良いと思うよ?」


  目を輝かせながらポチ丸を見つめる様子を見るに、怖がっているどころか憧れているようにも思えてきた。 正体を見せても大丈夫だろう。


「じゃ、じゃあ変身するね?」

「はいっ!」


  ワクワク、ドキドキといった効果音が聞こえてきそうなほど女性は興奮している様子で、さすがのポチ丸も心無しか引いているように見える。

  さっきまでレアな装備を盗られたって泣きかけてたのは何だったんだ?



 ◇◆◇◆◇◆◇



「グルァァァァァァァァァッ!!」

「うわぁっ、本物のドラゴンじゃないですか!」


  離れているように女性に促していたが、ポチ丸がブラックドラゴンの姿に戻ると一目散に駆け寄った。


「そうだよ、ボクは本物だよぉ?」


  そして隙間など少しもない、漆黒の鱗が生えた背中を優しく、これ以上の幸福は無いといった恍惚の表情を浮かべながら撫で始めた。

  何なら撫でられてるポチ丸も嬉しそうだ。


「ところで盗賊達の服装とかって覚えてますか? 一番いいのは匂いを発するものなんですけど……」

「匂い…… あっ、これなんてどうですか?」


  女性はポチ丸に右手で触れながら、俺に黒い布切れをポケットから取り出し、手渡した。


「盗賊達のリーダーさんのスカーフを引きちぎってしまった物です、これが唯一の手がかりで……」

「これだけで充分です。 ポチ丸頼むよ」


  受け取ったスカーフの切れ端を、匂いを嗅ぐために首を垂れるポチ丸の鼻先に近づける。

  まるで犬みたいな絵だけど、これが一番簡単で手っ取り早い人探しの方法だ。


「覚えた!」

「ありがとなポチ丸。 それで、こいつの持ち主はどこにいる?」

「街の方だね、乗ってく?」


  ポチ丸は自分の背中を指さしたので、俺は未だ片手でポチ丸を撫で続けている女性を見る。


「一緒に行きますか? ここで待っててくれても良いですけど」


  そう尋ねると、女性はポチ丸から手を離して左手に握っていた杖を両手で強く握って、真っ直ぐな目で俺を見つめた。


「一緒に行かせてください」

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