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 幌馬車はコッコラに向けて街道を進む。

 カーリクスの検問所では緊張を強いられたけれど、フリーパスの通行札は正しく機能するらしく、調べられることも無くすんなりと通れた。

 通行札は銀のコインを複雑な形に加工した割符になっており、検問所の半分と合えば良いらしい。

「アオイの格好は分かるけれど、エリンはずいぶんと着古したコートね。お姫様が持ってて良い物じゃないわよ」

 ティア姉の指摘通り、エリンの服装は全体的に着古した感じがした。

 生地もどこででも手に入る一般的な物で、王宮で手に入るとは思えなかった。

 どこか自慢気な表情でエリンは返す。

「ふっふ~ん。こんな事もあろうかと侍女から買い取っておいたの。これで私もただの村娘ですわ」

 どうしても気品が出てしまうのは仕方ないと思うけれど、シルヴィは気になってしまうのか指導を始めた。

「村娘はですわなんて言わないのです」

「あら、失礼。ただの村娘よ」

「それと、わたくしではなく、わたしかあたしにすると良いのです」

「ごめんなさい。そこは癖になってますので、なおすのは難しいかと。高貴な振る舞いの村娘でお願いします」

「シェレフティオ中を探しても、そんな村娘はいないと思うのです」

「あら、世界は広いのよ。ひとり位いても神様はお許しくださるに違いないわ。ね、アオイ」

「私からは何とも」

 困ったような笑顔で言うアオイを余所に、幌馬車は順調に(けやき)の並木道を進んでいく。

 まだ明け方だというのに荷台に荷物を満載にした馬車と何度もすれ違う。

 流石はカーリクスとコッコラを結ぶ街道だけはある。

 厳密に言えば検問所を抜けた瞬間からコッコラの州に入っているけれど、州都であるコッコラの街はまだずっと先にある。

 大体三日もあればコッコラの街に着けるだろうと、ヤスカが教えてくれた。


 昼食を宿場町の食堂で取る事になった。

 やたらと堅焼きのパンにベーコンや野菜を挟んだだけの物と、具材がたっぷりと入ったスープを食べる。

 昼食にはちょうど良い分量だった。

 固いパンを手づかみで(かじ)り付くなんて食べ方をしたことがないのだろう、エリンは最初こそ戸惑っていたけれど、みんなの食べ方を見ながら真似をして食べる。

「堅いけれど美味しい。美味しいけれど堅い」

 哲学を論じるようにエリンは神妙に呟く。

「スープに漬しながら食べると柔らかくなるわよ」

 エリンが噛み切るのに手こずっていると、ティア姉は自分のパンをスープに漬してから食べてみせる。

 エリンはそんな食べ方が、とでも言いそうな驚きの表情でそれを見る。

「そんな食べ方が!」

 言っていた。

 不器用な手つきでパンをスープに漬すと、溢さないように皿の上に前のめりになって食べる。

「ん~~~~ん」

 幸せそうな笑顔で感嘆する。

「パンが柔らかくなって美味しい。それに温かいスープなんて初めて」

 贔屓目に見ても感嘆するほど美味しいパンではないし、夏でもなければスープが温かいのも当たり前だと思う。

 同じ事を思ったのかティア姉が聞く。

「初めてって、どういうこと。カーリクスに温かいスープは無いの?」

「無いのじゃないかしら。私は一度も飲んだことはないわ」

「エリン様の言葉を信じてはいけませんよ。カーリクスにも温かいスープはありますし、むしろそちらが主流です。市井の皆様は温かい料理を召し上がっています」

 アオイが訂正するけれど、エリンは納得いかないようだった。

「そんなはずないわ。温かい食べ物なんて食卓に出たこと無いもの」

「マルック国王陛下は心配性ですから、毒見がしっかりしていたのでしょう。不死の王とはいえ、毒は効きますから」

「ああ、毒見で料理が冷めちまうのか。王族ならあり得る話だ」

 ヤスカが納得すると、エリンは不満そうに頬を膨らませた。

「ちょっと、お父様を弱虫みたいに言わないで」

「褒めているのですよ。用心深いのは良いことです。ミズキ様など何度毒殺されたか分かりませんから」

 妙な言い回しだった。

 まるで何度も死んでいる様な言い方だ。

「ミズキって魔王よね。アオイは魔王と親しかったの?」と、ティア姉が聞く。

「はい。いつも一緒でした。実はミズキ様が居なくなってしまったので、退屈しのぎに巡礼と言う名の観光で全国を回っています。サッラ王国にも物見遊山で来ました。ですのでエリン様がお忍びで抜け出すのを影から見て付いてきました」

 アオイが親しかったミズキは、今はリータの中にいる。

 教えた方が良いのだろうか。

 そっとティア姉を見ると目が合った。

 リータの考えを感じ取ったのか、ティア姉は静かに首を振った。

 周りのみんなを見ると、ティア姉に同意するかのように頷いていた。

 ティア姉やみんなが言う必要がないと思っているのなら、それに従っておこうと思う。

『ミズキは知らせたいですか?』

 念のためミズキに聞いてみたけれど、返事は帰ってこなかった。

 どうやら深い眠りについているらしい。

 無理に起こしてまで聞こうとは思わなかった。

「ですが、ミズキ様はどこかにいるような気がするのですよね。ついでに探してみようかと思っております」

 アオイがドキリとする事を言うと、エリンがすかさず否定する。

「いやだアオイったら。魔王ミズキは勇者クルト様によって打ち倒されているではないですか。探しても見付かりませんよ」

「いいえ。信じていればミズキ様は存在します。そうは思いませんか、リータ様」

 アオイは笑顔をリータに向けてくる。

「え……」

 突然のことにリータは反応できなかった。

 何故リータに話を振ってきたのだろうか。

 偶然だろうか。それとも……

「あ、突然ごめんなさいね。リータ様が何か話したそうな面持ちでしたので、つい」

「ああ、えっと、リータは別になにも……」

 言い淀んでいるとエリンが助け船を出してくれた。

「アオイあなたね。魔王が生きているなんて言われても信じられませんでしょう。いえ、信じたくもありませんわね」

 話すのも嫌だといった様に、顔には嫌悪する表情が浮かんでいた。

「そうですね」とアオイ。

 そう、真実を知らなければエリンの態度が正しい。

 正しいのは分かっていたけれど、真実を知っているからか、悔しくも思ってしまうのだった。

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