プロローグ その1
シェレフティオ大陸には六王国と呼ばれる大国と、小部族の一都市からなる国家群があった。六王国は約三五〇年前に初代勇者の息子達によって建国され、以来小さな争いは有ったものの、概ね平和な時代が続いていた。
しかし、デンナ島にハメーンリンナ共和国が建国されたことで戦争が起こる。
ハメーンリンナは政治犯や異教徒などの流刑地として利用されていたが、ただの流刑地としては広すぎた。一王国に匹敵する国が出来るのに十分な土地があり、そして人が集まったのである。
皮肉にも王政に懐疑的であったり、神の摂理に反する考え方は先鋭的な思考となり、共和制という新しい体制を生み出しつつあった。
それは絶対君主制しか持たない六王国にとっては革命を誘発する脅威であり、制度として確立する前に滅ぼす必要があった。
そこでハメーンリンナの初代大統領となったミズキを魔王と認定し、魔王を討伐すると云う大義名分で軍を結成した。
それが第一次魔王討伐軍の侵攻である。
魔王討伐軍はトゥルク王国、ヴァンター王国、ラーニラ王国の三カ国で構成され、各国一万人ずつの連合軍総数は三万人だった。
これは参加国の足並みが揃わないのに加え、唯一の陸路であるモー・イラーナオ大橋という大軍が進むには狭すぎる侵攻路と、予想していなかったミズキの強大な魔法に対抗できず、一万人を失う大敗を喫して失敗に終わる。
もはやハメーンリンナの国力が侮れないことを知った国々は、初代勇者に匹敵する力を持つと云われたトゥルク王国の王子であるクルト=ベルグストロームを勇者とする討伐軍を組織する。
それはユヴァスキュラ王国を除くトゥルク王国、ヴァンター王国、ラーニラ王国、サッラ王国、キルナ王国の五カ国で構成され、各国一万人ずつの連合軍総数は五万人だった。
それが第二次魔王討伐軍の侵攻である。
第二次侵攻はモー・イラーナオ大橋だけでなく、大船団で30キロの海峡を越える大規模な揚陸戦だった。
勇者は揚陸部隊を援護するためにミズキと一騎打ちをして勝利するが、後に「破滅の光球」と呼ばれる魔法の球体によって討伐軍は壊滅する。
この時に失った兵士は四万人を越えるが、移動した「破滅の光球」に巻き込まれた民間人の確認できた死者数は千人程度で、行方不明者数は少なくても五六万人と云われる。
その大方はトゥルク王国の人間である。特に被害を受けたのは「破滅の光球」の進路上にあった街や都市で、中でも王都のヴィロラはほぼ中心を通られたため壊滅に近い被害を受けた。
「破滅の光球」は直径三キロの球体で、四百キロに達する距離を大地を削って進み、復旧不可能の傷痕をシェレフティオ大陸に残した。
今現在、トゥルク王国の王都であるヴィロラは復興の最中にあったが、国王不在のままでは、ほとんど進んでいないのが現状だった。