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UTOPIA――another story もう一つの世界  作者: にゃー中隊長
2/5

1話

 ――この日、十一月十五日は俺の誕生日。

 しかし、それだけじゃない。

 そう、この日は俺が十六歳になる日。

 つまり冒険ができるようになる日ということだ。

 パーティーメンバーである、あずきさん……あずちゃんは十月三十日に誕生日を迎え、すでに十六歳になっている。

 だからこの日は誕生日以上に大切な俺らが冒険を始めた日になるのだ。

 今からワクワクが止まらない。

 俺はその思いを右手に込めると、勢いよくドアを叩いて家を出た。

 あずちゃんとの約束の時間まではまだあるが、俺の興奮した気持ちを抑えることはできず、思わず飛び出してしまう。

 きっとあずちゃんもワクワクして約束より早めの時間に来ることだろう。

「なら、どっちが先に着けるか競争だ」

 誰もいない隣に向かって俺はそんなことを言う。


 ――うん。

 勝ったよ。

 しかも余裕で。

 今こっちに向かってきてるの見えてるもん。

 ただ、なんだろうこの敗北感は。

 俺が一人でワクワクしてたみたいでバカみたいじゃないか。

 約束の場所に十分早く着いた俺は、あずちゃんが着くのを今か今かとソワソワしながら待っていた。

 しかしなんだ、現実は違ったじゃないか。

 あずちゃんは時間通りに着いた。

 俺は一体誰と競い合っていたんだ。

 まあ、元々誰もいなかったけど。

 一人でタイムトライアル的なことをやっていただけなのだけど、そうじゃない。

「にゃーさん、やっほー。って、どうしたの? 何か悩み事?」

「……あずちゃん、今日ワクワクしてる?」

 暗く真剣な声で俺はあずちゃんに問う。

「そりゃあ、この日をどれだけ待ったことか。ワクワクしてるよ」

 あずちゃんは楽しそうに答えた……気がする。

 本人には言わないが、あずちゃんは基本的に喋る言葉が棒読みっぽくなる。

 ひどい棒読みじゃないから、感情を読み取れないとはないのだが、時折読み取れないことがある。

 特に楽しいとか言ったときのその楽しさのレベルを読み取るのが難しい。

 まあ本人には言いませんけど。

「まあいいや。とりあえず行こうか」

「うん……。なんかあった? テンション低いけど」

「いや、別に。なんか自分のやってたことが馬鹿らしくなってきただけ」

「?」

 あずちゃんは不思議そうな表情を浮かべているが、そんなことはどうでもいいので俺は急ぎ足で進み始める。

 すると、あずちゃんも後ろから同じように急ぎ足でついてくる。

「ねえ、どこに向かうの?」

「そりゃあこの町の外に出るんだから端のほうに――」

「でも出る前にクラスを設定しなきゃいけないんじゃないの?」

「あ、やっべ忘れてた」

「へっ」

 俺のミスを鼻で笑うあずちゃん。

 若干イラっとしたものの、いつも通りなので放置。

「まあいい、設定しにいくぞ」

 顔を伏せながら俺は言った。

さっきから空回りしてばっかの俺。

 一体どうしたんだろう?

 そんな疑問を胸に俺は再び冒険者ギルドを訪れることに。


「ふう、なんだかんだでここに来るのも一年ぶりか」

「そうだね」

「初めてあったときのあずちゃんはいい子だったのに。なんでこうなったのか」

「はいはい」

 俺が皮肉を言っても相変わらずのスルーをかますあずちゃん。

 全くひどいもんだ。

 まあ今更普通に反応されても困るんだけど。

 そんな他愛もない会話をしながら俺たちは冒険者ギルドの中に入っていく。

 やはり相変わらずのうるささであったが、昔のようにひるむことはなかった。

 慣れたからというのもあるが、あずちゃんがいることが一番大きいのだろう。

 本人には決してそんなことは言わないが。

「えーっと、クラス設定ってどこでできるんだっけ?」

「そこはリーダーなんだから知っててよ」

「面倒くさいからいやだ」

「面倒くさがるなよ」

 こんな会話をしておきながらも目的地に迷わず着く俺たち。

 圧倒的な矛盾を感じる。

 俺はカウンターに立っている人の中で一番優しそうな人に話しかける。

「あの、クラス設定をしたいのですが」

「はい。クラスについての説明は必要ですか?」

 俺はあずちゃんの顔をチラッと見る。

 それに気づくとあずちゃんは頭を縦に振った。

「じゃあお願いします」

「はい。……クラスというのは冒険者に与えられる職業のことで、剣士、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊の五種類があります。この中からその人に最もあったクラスと、能力が与えられます」

「自分で選べないんだ」

「あれ、あずちゃん知らないの?」

 後ろから知らないという言葉が聞こえたので間髪いれずに煽りを入れる。

 まあそんな言葉も。

「すごいねー」

 この一言で返されてしまうのだが。

「コホン。……続きいいですか?」

 一回咳払いをいれて、俺に応答を求めてくる優しそうなお兄さん。その表情は若干ひきつっていた。

「あ、どうぞ」

 そんな様子にも気づかずに続きを求める俺。

「では。お二人は同じパーティーであってますよね?」

「はい」

「もちろん」

 お兄さんの質問に二人で回答する。

「このカードを受けとってください」

 そういうとお兄さんは厚紙でできた茶色いカードを差し出してくる。

 俺は二枚のカードを受け取るとそれをあずちゃんにも回す。

 持ってみると意外と丈夫で、紙でできてるとは思えないものだった。

「ではそれに書かれている質問に答えていってください」

 紙には二十問程度の質問が書かれていた。

「……えーっと、ペンってありますか?」

「ペンですか? 用意してませんね」

 ええ、前はあったのに。今回もあると思って持ってきてないんだけど……。

 俺は再びあずちゃんの顔をチラッと見る。

「はい。ペン」

 事前に用意してたのか、俺が振り向いた瞬間に直ぐ渡してくる。

「さっすがあずちゃん! いやー頼りになるねー」

「こういうときだけ褒めるよね。別にいいけど」

「大丈夫、大丈夫。いつも感謝してるから」

「本当かなー?」

 おっと褒めたはずなのに何故か疑いの目を向けられてるな。

 いやー、ひどいもんだ。

「てか、早く書いてよ? 私も使うんだから」

「ああ、ごめんごめん。直ぐ書くよ」

 そう言うと俺たちは近くの机に移動した。


「――よし、こんなもんかな」

「ん? 終わった?」

 俺が終わったことを伝えると、暇そうな声が横からかけられる。

「うん。ありがとう」

 俺は隣でずっと暇そうにしてたあずちゃんにペンを渡す。

「やっとか」

 嫌みのような言葉を発するあずちゃん。

「悪かったな」

 多分必要はないだろうが、時間がかかったのは確かなので一応謝っておく。

「まあ、別にいいんだけど」

 やっぱり必要なかったか。

「と、今度は俺が暇になる番か」

「そうだねー」

 俺の仕返しの嫌みも関係なしに質問に応え続けるあずちゃん。

 俺が書いている間に一通り質問に目を通していたのだろうか? 予想以上に解答速度が速いことに俺は若干の興味を抱く。


「――終わったよ」

「速いな」

 俺は机に顔を突っ伏した状態で話しかける。

「まあね。一通り質問には目を通していたから」

「ふーん。――そんじゃ、出しに行くか」

 俺は突っ伏していた状態からやる気を入れるように一気に立ち上がる。

「え? これって出しにいくの?」

「ん? いや、でも他にすることなくない?」

「まあ確かに。じゃあ出しに行こっかー」

 俺とあずちゃんは再びさっきのカウンターに戻ることに。

「……ねえ、これってどうやってクラスを決めるの? 自動っていってもこの質問から決められるとは思えないんだけど」

「確かに。質問の内容が普段の生活状況を聞くようなものばかりだもんな」

 言われるまで気づかなかったが、疑問を抱いておかしくないことだ。

「でも考えても無駄だろうし、とりあえず今はクラスが何になるかの予想でもしようじゃないか」

「いや、もう着くから」

「あ、本当だ」

 俺はあずちゃんに綺麗に突っ込まれて気づく。

「あ、書き終わりましたか? 預かりますね」

 カウンターの前に立つ前にお兄さんが出てきてカードを受け取ってくれた。

「クラスが決まるまで少々時間がかかりますので時間を潰して適当にお待ちください」

「あの、時間ってどれくらいかかります?」

 そんなにかからないとは思うが一応目安として聞いておくことに。

「えー。今からだと夕方頃になりますかね」

「へ?」

 そんなにかかんの?

 今まだ午前だよ?

 えっ、そんなにかかんの?

 じゃあ今日は。

「冒険できないねー。残念」

 間延びした声が横から聞こえてくる。

「……本当に残念に思ってる?」

「うん」

 なんだかそんな風に聞こえないのだが、俺の耳が腐っているのか?

「まあいいや。じゃあどっかで飯食ったりして時間潰すぞ」

「そうだねー」


 この後、何回かギルドを訪れたのだが、毎回『まだ決まってないです』と言われ、結局決まったのは予定通り夕方だった。

 で、結果として俺のクラスは剣を扱って戦うことを得意とする近接戦闘系の職業、剣士だった。

 あずちゃんは何故かよくわからんが見方の盾になったりすることを得意とする戦士だった。

 それだったら男子である俺の方が適任な気がするのだが。

 しかし、自動で決められたものはしゃあない。

 俺はあずちゃんに明日の集合時間を伝えると、家に帰った。


「はあー。今日は疲れたよ。久しぶりにあれだけ歩いた気がする」

 俺はベッドに仰向けに寝転がり、天井を見ながらひとり呟く。

 かなり疲弊していた俺はこの一言を最後に暗い暗い夢の世界へと身を投じていった。


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