プロローグ
「ああ、パーティー作りたい。冒険したい」
俺は家で一人そんなことを嘆いた。
俺の名前はユウキ。十五歳で訳あってあだ名がにゃーさんな男子だ。
で、なんでこんなことをいきなり嘆いているのかというと、俺が来年から一人暮らしを開始する上に、職業に就かなければならないからだ。
この町では男子女子ともに十六歳から働くことと結婚することが許されている。
で、普通の人なら商業をするだのといった普通のことをするのだが、元々一般的なことを嫌っていた俺は冒険者になることに憧れた。
冒険者とは、色んな町を旅しながらモンスターと呼ばれる人に危害を与える生物を駆除したり、人から頼まれた依頼をこなしたりして手に入れたお金で生計を立てていく何でも屋のような職業のことだ。
正直収入は安定しない。
それでも俺はこの職業を選んだ。
きっとその大変な生活の先には素晴らしいことがあるから。
俺はそんな胸の熱くなるような思いを抱えて立ち上がる。
「来年の俺のためにも今から行動しないとな。となると、やっぱ最初は人集めかな。確かこのあたりで人集めができるのは……」
俺は壁に長年張ってあるこの町の地図を見る。
「そうだ、ここだ」
俺は地図の中心。すなわち町の中心となるところに行先を定める。
その場所の名前は冒険者ギルド。
パーティーを作ったり、仲間を集めたり、依頼を探したりできる冒険者の集会所のような場所。ついでに食事や宴会もできる。
「よし、ここに向かおう」
俺はショルダーバックにペンと紙を入れると、勢いよくドアを開けた。
「ここが冒険者ギルドか」
俺は石造りの見上げても見上げきれない大きさのある冒険者ギルドにすでに怖気づいていた。
いや、正確には中から時折聞こえてくる怒号などに怯えていた。
「……こんなところで怖気づいていたらいつまでも進まないぞ! 俺!」
俺は自分に気合を入れるために、頬を二回ほど軽く掌で叩いた。
「――よし」
俺は自分の背丈より少し大きいドアに手を当てると、そのままゆっくり押していった。
すると中からはあらゆる声が聞こえてきた。
さっきから聞こえていた怒号だけではなく、笑い声や楽しく話している声が聞こえてきて、ひとまず俺は胸を撫でおろす。
「――こんにちは。お食事ですか? それなら空いてる席へ」
優しそうな顔のお姉さんが俺に話しかけてきた。
そのお姉さんの服は露出が多く、あらゆる場所、代表的には胸に目がいってしまう構造の服だった。
俺はできるだけ目を離そうと努力しながらお姉さんの質問に応える。
「え、えーっと。パーティーを作りたくって……」
「それなら、奥のカウンターで紙をもらって、それを掲示板に貼るといいですよー。あと、それ以外の紙に書くと剥がされちゃいますからお気を付けください」
「ありがとうございます」
俺が礼を言い終わる前にそのお姉さんは消えてしまった。
「いい人だったなー」
俺は少し話したことでさっきまで緊張で強ばっていた体が軽くなった気がした。
ていうか俺が紙持ってきた意味ないじゃん。まあいいけど。
で、奥のカウンターだったな。
俺はその場所と思わしきところを見つけると、そこに向かって歩き始めた。
周りの人に声を掛けられたくない一心で歩いたため、歩は気持ち速く進んでいった。
「あ、あのすいません」
「はい?」
俺はカウンターに立っている人のなかで優しそうに見えるお兄さんに声をかけた。
「えーっと、パーティーメンバー募集用の紙が欲しくて……」
「ああ、これですね。では、そこのテーブルの上でお書きになってください」
俺が言い終わる前に紙とペンを差し出してくるお兄さん。
……なんだ、ペンもいらないじゃん。
「あ、書き終わったらどうすればいいですか? そのまま貼ってもいいのでしょうか?」
「ええ、もちろん」
なんか、今日初めて最後まで言葉を言わせてもらった気がする。
まあ、いい。
分かってしまえばこっちのもんだと言わんばかりに俺はすらすらと文字を書き始める。
もうすでに内容は考えている。
「――よし、こんなもんか」
俺は書き終わった紙を持って掲示板があるギルドの中央に向かった。
えーっと、この辺りにしようか。
俺が紙を貼る位置を考えているとき、ふと背筋に違和感を感じた。
まるで誰かから見られているかのような違和感を。
俺は一瞬作業を中止して振り向こうとする。が、何か振り向いてはいけない気がしたのでさっきまでしていた作業に戻る。
振り向くのは作業が終わってからでもいい。
そう思ったが、作業が終わって振り向いた頃には誰も見ていなかった。
うーん。一体誰だったのか? 確かに見られていた気がしたんだが……。
まあ、勘違いという可能性もあるし、とりあえず今日は帰ろう。
俺はなんとも言えない気持ちを抱えながらその場を去ることに。と、その時。
「あのー。パーティーメンバーを募集していらっしゃるのですか?」
横から声を掛けられた。
びっくりしながらも、相手を驚かせないようにゆっくりと声の聞こえた方に顔を向ける。
「はい。その通りですが。何か?」
話しかけてきた人は特徴的な腰まで伸びる長い青髪を持った女の子だった。
身長からして同い年だろうか?
「えーっと、私も入りたいなと思いまして……」
さっきまでの俺と同じようにオドオドした感じの女の子。
「は、はあ。一体なぜでしょう?」
思わず釣られて同じようにオドオドと話してしまう。
「私、同い年の人とか年齢が近い人と冒険をしたくて。で、やっと同じような年齢の人を見つけたので声をかけさせていただきました」
なるほど。
「あの、多分この文章をしっかり読んだほうがいいと思いますよ?」
「え?」
その女の子は何を言っているのか分からないと言いたげな顔をする。
前にも言った通り俺は十五歳。
まだ働くことのできない年齢だ。
だから必然的に冒険を始めるのは一年後となってしまう。
きっとこの女の子はそのことを理解していないのだろう。
と、もうそろそろ文章を読み終わりそうだ。
さて、この女の子の反応は?
「――えーっと、全く問題ないですね」
「……へ?」
一体どういう……。
「私も同い年なんですよ。だから逆に一年後で丁度いいかなって感じで」
マジか。
「じゃあ、このパーティーに参加するってことでいいですか?」
「はい」
まさかこんなに早く集まるとは思っていなく、驚愕の表情を隠せない俺。
えーっと、メンバーが決まったら次はどうするんだ? あ、そうか自己紹介。
「あのー、名前を教えてもらっても?」
「あ、『あずき』です」
「あずきさんですね。ちなみに俺はユウキっていいます。みんなからはにゃーさんって呼ばれてます」
流れで俺も自己紹介を済ます。
「え、なんでにゃーさん?」
俺の名前とあだ名との接点が思いつかなかったのだろう。
いつも通りの疑問がぶつけられる。
「それにはいろんな訳がありまして。まあ、そのうち話します」
「あ、はい」
若干腑に落ちない表情を見せるあずきさん。
少し申し訳なく思ったが、あんまり言いたくないことなのだと察してくれたのだろう。それ以上は深く掘り下げないでいてくれた。
「あのー。どっちの名前で読んだらいいでしょうか?」
「できればにゃーさんと呼んでいただけると」
「にゃーさんですね。分かりました」
…………。
ここまで話してしまうと話す内容が無くなってしまった俺。
多分あずきさんもそうなのだろう。
二人の間になんとも言えないん沈黙が生まれる。
ここまでの話でこれからの関係に不安な感情を見出してしまった俺だったが、そんな心配は無用だった。
これから俺とあずきさんは毎日会うほど仲良くなっていったのだから。