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セカンドライフは魔皇の花嫁  作者: 仁蕾
第1章
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第1章-5

「コータ様の存在が安定するまでは、それが安定補助装置の役割を果たし、魔力の安定、存在の確立が成された後はコータ様の魔力の制御装置となります」


 自分の魔力と言われても、いまいちぴんと来ない。元々、そのような非現実的な事象が存在しない人間だったと言うのも関係しているのだろうけれども。

 歪んだ表情に、ミオンとヴィヴィアンは笑みを滲ませた。


「コータ様の体には、確かに魔力が循環しています。今はまだ自覚を持てないでしょうけれども、もう少し体に馴染みましたら魔力の扱い方を勉強いたしましょう」

「それが良いわね。コータ様、ミオンは年若くとも宰相(フィニ)の座に君臨した男。魔力の扱いは冥幻魔界(ジュノ・ガルディス)でも三本の指に入ります。師と仰ぐには適任でしょう」

「あー…えっと、その際は宜しくお願いします」


 康泰が頭を下げれば、主人の膝の上で体を丸めていたリィが顔を出し、主人に倣ってきゅいっと声を上げた。

 可愛らしい黒い毛玉に、ヴィヴィアンが「あら?」と首を傾げる。


「既に従僕魔(スピニア)と契約されたのですか?」

「スピ…?」


 知らぬ言葉に、康泰は眉を寄せてミオンへと視線を向けた。


「従僕魔は使い魔の事です。わたくしとシュノアは契約してはいませんが…自身の眷属として契約し、移動手段としたり、雑用をさせたり。用途に合わせて複数契約している者もおります」


 冥幻魔界には多くの種族が存在し、姿も違えば魔力の素質、性質、身体能力にも大きなふり幅がある。力無きものは支配されるか、眷属として生きるか、死を覚悟で戦うか。

 しかし、強い力を持つ者であっても、従僕魔として契約する為には契約主の『格』が関係するのだと言う。『格』がそれほど高くなければ一体が精々。反対に『格』が高ければ五体でも十体でも契約が可能だと言う。


「ビビ、彼にはリィと言う名があります。コータ様が人間でおられたときからの長い付き合いです。従僕魔とは些か意味合いが違うでしょうね」


 ミオンに同意するかのように、リィはきゃうと声を上げると二度三度瞬きを繰り返した。

『お初にお目に掛かる、ヴィヴィアン=ジュエラ。私は康泰様と黄泉路を渡りました、リィと申します。以後、お見知りおきを』


 見た目に似合わぬ低い声が可愛らしい口元から零れ出た。驚愕したのは、主人たる康泰。


「おお…喋った…」


 しかし、ミオンもヴィヴィアンも動じない。冥幻魔界の大抵の生き物は、差はあれど言葉を解するからだ。


「よろしく、リィ殿」


 簡単な挨拶を返し、「さてと」とヴィヴィアンは長息を漏らして立ち上がった。


「さて、装飾具も馴染んで安心したし、あたしは帰ってひと眠りしようかしらね」


 言うや否や、大きな欠伸をひとつ。康泰もミオンも苦笑を浮かべながら礼を述べ、手を振り帰って行くヴィヴィアンにひらひらと手を振り返した。


「で、さ。『旦那様』って、もしかして…」

「はい…先代魔皇閣下でございます。ビビは先代の王妃(ジュエラ)でした。本来、皇妃含め魔皇閣下の妃方は閣下の崩御と共にお隠れになられます。しかし、ビビは先代の願いによりその魂を付加装飾具エンチャント・アイテムに移し、今なお魔皇閣下の王妃として生き続けているのです」


 その願いはミオンには分からない。ヴィヴィアンに聞いても、教えてくれないのだ。ただ、教えられないほど重要な願いなのだと察している。


「本当は、ビビも先代と共に逝きたかったのだと思います。それだけ先代を深く愛し、深く愛されていました。その願いを覆してでも叶えたい、叶えなければならない願いとは…」

「そっか…」


 康泰は左手首のバングルへと視線を落とす。

 もう会う事の出来ない人の『欠片』を手放すのは、どれだけの葛藤と覚悟が必要だったのか想像も出来ない。しかし、申し訳ないと思うのは、ヴィヴィアンに対して失礼であるような気がした。


(ありがとうございます…)


 右手でバングルを包み込み、瞼を伏せて胸中で礼を述べる。潔い愛を示してくれたヴィヴィアンに。そして、今は亡き皇に。


『主』


 控えめに掛けられた声に、康泰は目を開き、リィに視線を向けた。


「うん、どうした」


 指先で顎を擽れば、くうくうと可愛らしい声が上がる。


『宰相殿が戻られる前にこの部屋へ侵入した不届き者がおりました』

「侵入者?」


 リィの報告に康泰は首を傾げ、ミオンは表情を歪めて口元に手を添えた。

 部屋には侵入者を阻む結界を張っている。普段は何もしていないが、今は何者にも代え難い存在である康泰が滞在しているのだ。何も対策をしないなどと言う愚行はしない。

 冥幻魔界随一の装飾師であるヴィヴィアンが作り出した付加装飾具を使用した結界だ。簡単にすり抜ける事は出来ない。しかし、自身やヴィヴィアンよりも下位の魔族であれば、と言う条件が付く。

 可能性があるとすれば。


「他の王妃の従僕魔か…。リィ殿、その侵入者はどのような姿でしたか?」

『鈴を提げた黒猫であった』


 黒猫。その言葉にミオンは安堵の息を付く。


「ノディ殿ですか…それならば安心ですね。彼女は水閣区域(第四階層)の魔王、ガロン・ティシェア=ジュエラの従僕魔です。ガロン=ジュエラは力を欲する方ではありますが、魔皇閣下のご正妃の座に興味など無いお方。好奇心旺盛ではありますので、どこから嗅ぎ付けたのかは知りませんが、わたくしがお守りになられているコータ様をご覧になりたかったのでしょう」


 気性は荒いが気のいい相手であるとミオンは笑った。


「ふーん…」


 人の意識が無い間に、従僕魔を送りつけて来る人物を『気のいい相手』と認識するには些か不安が残る。何はともあれ、いずれは本人に会う事になるだろうと自己完結し、「そう…」と頷くだけに留めた。


「とりあえず、今日は動かないで休まれてください」

「もう十分に休んでるんだが…」


 眠ったり起きたりを繰り返していると寧ろ動きたいのだが、ミオンは首を縦に振ろうとしない。


「今日まではどうかご静養ください。明日からは動いて構いませんから」


 付加装飾具を装着し緩やかに安定を始めてはいるが、何がきっかけで揺らぐか分からないからと必死に宥めるミオンに、康泰は渋々と出はあるが了承し起こしていた体をベッドに沈めた。


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