[03話] 襲撃
モニターが映すケーブルの断端。そして銃声の残響音。
状況を把握すべき脳は麻痺したかの様で身体は動かない。
その止まった時間に、一つの言葉がカチリと嵌まり込んだ。
―― 狙撃!?
唐突に帰還を果たす意識。
呼応して自由を取り戻した肉体が、無我夢中で身体を沈める。
whiz! 何かが至近距離を掠めるゾッとする音。
伏せた背中にブワッと冷や汗が滲み出た。
僅かに顔を持ち上げれば、視野一杯に夕暮れ刻の廃墟。
発砲場所を特定しようとして即座に思い止まる。
“時間の無駄だ! それよりも……”
バッグを漁っていた右手が、缶スプレーに似た発煙手榴弾を床に転がす。
途端レバーが分離して跳ね、凄まじい勢いで黒煙が噴き出した。
俺は伏せた姿勢を崩さず、周囲を見回して吠える。
「どこだ《相棒》! 退避だ!」
拡声器を介した声が響くがインカムに応答は無し。
whiz! また銃弾の擦過音。
慌てて頭を下げれば、身体全体が黒煙に沈み込んで視界は0……いや、煙に混じって発光体が緩やかな点滅を繰り返していた。
《IRジャマーゾル》 ―― 熱赤外線探知を著しく阻害する微粒子。
“この金がかかった煙幕が消える前に退避しないと!”
相棒と装備品を置き去りにすることに歯噛みするほどの葛藤。
だが、それを無理やり捻じ伏せる。
“迷うな! 時間との勝負だ!”
全長1.5m近い愛銃を掴んで跳ね起き、人工筋肉が生み出すパワーアシストの勢いに乗って猛然とスタートダッシュ。
今や黒煙は室内に充満しきっていた。
完全に姿を消した出口に向かって突進した身体は、運よく回廊へと転げ出る。
16階を左右に貫く長大な回廊。
溢れ出す黒煙を尻目に足先は迷わず左へ向かう。
回廊の終端はかつてのエレベーターホール。
そこには開閉扉を失い漆黒の口を開けるエレベーターが数基。
俺は義務感に駆られるまま、その内の1基へと躊躇なくダイブする――
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
エレベーターの内部は、延々と地階まで伸びる薄暗い縦坑。
恐ろしい勢いで身体が墜ち続ける最中、蜘蛛のように複数配置された動甲冑の眼が――蛍光色の長縄を映す。
夢中で長縄を掴み取れば、急制動に由来するガツンとした衝撃。
それでも落下の勢いは収まらず、動甲冑が数m以上沈み込んでようやく完全停止に至る。
周囲に漂うのは、摩擦による焦げ臭いニオイ。
俺は深い溜め息を吐くと、片腕だけで100kgを超える装備重量を支えたまま、気が済むまで悪態をつき続けた。
「マジか!」
「なぜコチラが先に発見された?」
「一体何処からの狙撃だ? 誰の仕業だ?! 一体何のために!」
「クソッ! %×$☆♭#▲!※」
とにかく、まるで情報が足りない!
正体不明の敵に監視を中断させられた今、何から手を付ければいい?
躊躇した末、俺は隊内無線での呼び掛けを開始する。
「クラリッサ、こちら〈F-241673〉。無事か?」
「繰り返す。こちら〈F-241673〉。聞こえているなら応答を!」
「こちら〈F-241673〉……」