[25話] 試作弾薬
《R.P.D》は未だ、意味ある光景を映し出していない。
嫌でも、大口径ライフルを用いた狙撃に《観測手》が必須である事を再認識させられる状況。俺は焦燥に駆られる意識を宥めながら、再照準の機会をジッと待ち構えていた。
『…The bullet exploded 2m before the target.(弾頭は目標2m前で炸裂)』
ようやく届いた相棒からの着弾報告。更には 遠方からの異音 ―― 982m先から到達した小さな爆発音を、耳鳴りからの回復途中にある聴力が捉える。
――12.7mm空中炸裂弾――
塹壕や遮蔽物に隠れた敵の直上で弾頭を炸裂させるエアバースト・グレネードランチャー(ABGL)と呼ばれる火器が存在し、その専用弾薬を.50口径サイズまで小型化させたモノが《試作弾薬》の正体。
だがそれは、試作品にありがちな不具合を露呈する。
標的直近で炸裂するよう信管を設定していたにもかかわらず、実際は2mも手前で炸裂したのだ。
取説によれば、エアバースト弾の被害半径は概ね5m。
2mの誤差が生じたとは言え、高性能爆薬による爆風と高熱、剃刀じみた斬れ味の弾殻に曝されて全くの無傷とは考え難いが……どうだ?
着弾報告から2秒が経過。
吹き込んで来たビル風によって塵埃が薄れ、待望の敵拠点が姿を現した。
逸る心を抑えて、俺はx45倍の視野を彷徨わせる。
“黒煙!? 重機関銃が黒煙に包まれている!”
黒煙はエアバースト弾が炸裂した証し……だとするなら、重機関銃に取り付けられた大型照準器も無事である筈がない。
4マイル/時の風で黒煙は拡散。
全貌を表した重機関銃は三脚ごと大きく傾き、取り付いていた《正体不明の狙撃手》は姿を消していた。
“奴は何処だ?!”
負傷し足元に倒れ込んだか? 爆風を避け屋内へ逃走を図ったか?
“逃がすかよ!”
相棒に「室内を狙う!」と短く伝え、《試作弾薬》の三発目に990m(射程982m+誤差2m+屋内へ6m)→四発目に988m→五発目に986mと部屋の奥から手前に万遍なく被害が及ぶよう、炸裂タイミングを弾頭内の信管にマニュアルで送信。
誤差修正と呼ぶには拙い手法。
――しかし、ゴチャゴチャ考えて標的を逃してしまえば元も子もない。
唇の端を思い切り歪めたまま、チャージングハンドルを勢いよく前後させて強制排莢。全長147.5mmの未使用弾(初弾と同じく炸裂設定982m)が床に吐き出され、次弾装填が完了する。
『…I'll leave the targeting and firing timing to you.(照準も発砲タイミングも任意)』
数十秒前を思い起こして再照準を既に終えていた俺は、塵埃を被った愛銃のトリガーを引き絞る。
――――Dow!
再度、襲いかかる轟音と閃光と大反動。
盛大に巻き上がる塵埃。
細かなガラスやコンクリの欠片が混じった衝撃波が、動甲冑と愛銃を叩く。
『…Exploded indoors. …Left 0.3Mils.(屋内で炸裂。次弾、左へ0.3ミル)』
おそらく風が動き、弾道が僅かに逸れたらしい。
視界がクリアになるのを待ち、狙点を0.3目盛り横に振って修正。
『…Fire』
発射号令を聞き終わる前に、トリガーにかかった指が動く。
――Dow!
轟音と閃光、破壊と暴力を撒き散らすための儀式が繰り返される。
『…Hold your sights.… Fire!(照準そのまま撃て !)』
――Dow!
遂に弾倉内の全弾を撃ち切った。
銃身の精度低下を思えば推奨されないが、強制排莢で転がる未使用弾をダメ押しで撃ち込んでやるか? と悪視界の床に視線を走らせた瞬間――
Booooooom!!!
空気を震わせ到達する、エアバースト弾とは比較にならない爆発音!
『…Enemy's Hide has…exploded into flames!(敵拠点が爆発炎上!)』
狙撃手が潜んでいた階層が大規模火災を起こしている様子が、次第に鮮明な映像として浮かび上がる。
あれ程の猛威を振るった重機関銃が炎に炙られていた。
予想もしなかった唐突な結末に、達成感や爽快感は欠片も無い。
“……これで《正体不明の狙撃手》との殺し合いは……終わったのか?”
薄暮が終わりを告げる廃墟に、突如発生したビル火災。
ソレは篝火のようにも見え、心を奪われるほど怪しく映えていた……。




