[01話] ミシガン 2131
3 年後……
October 15th, 2131 東部標準時(UTC-5) 5:24pm
人工筋肉による締め付けと、頭部を包むヘルメットからの圧迫感。
汗で湿り気を帯び、不快さを増すセンサースーツ。
粘つく口からの呼気だけでなく、老朽化著しい高層ビル内に漂う異臭。
それら全てに耐え続けるのも、限界が近かった。
「……ツイてないぜ……畜生……」
先刻から、溜め息混じりの悪態が無限ループしている。
動甲冑を着込んだ俺が見下ろすのは、内戦で使用されたN・B・C兵器が原因で放棄された大都市の成れの果て。帰還したがる元住民はもちろん、好き好んで訪れる余所者すらいない都市廃墟。
だがそんな見捨てられた土地であっても、《怪物》が徘徊し始めたとなれば合衆国復興省や臨時州議会が黙ってはいない。
直ちに民間軍事会社《公社》へと怪物駆除が委託され、識別符号 〈F-241673〉 の名で呼ばれる《請負人》つまり俺が派遣されたというのが事の顛末。
しかし、半日近くかけてミシガン州入りした俺を嘲笑うかのように、肝心の《怪物》が姿を見せないまま日没が迫っていた。
「もし……このまま空振りに終われば報酬は無しか……」
両耳を覆うインカムから聞こえたのは、落胆が隠せない自嘲じみた独白。
自然と口元がヘの字に歪む。
公社から支給される支度金では、消耗品の購入だけで足が出る。
このまま駆除が不首尾に終われば、貯蓄を切り崩して日々の生活費に充てる他なく、装備品の更新やメンテまで手が回らなくなるのは間違いない。
日没後もギリギリまで粘るつもりでいるが、今回もまた動甲冑のオーバーホールが先延ばしになるかと思うと益々気が滅入る。
漏れ出た溜め息に合わせて、遠くから聞こえたのは構造材の崩落音。
代わり映えのしない廃墟への監視は単調そのもので、先刻から様々な雑念が湧いては消えるのを繰り返している。
明らかに集中を欠いた精神状態――不本意ながら小休止の必要性を認めた俺は、交代要員に向かって口を開く。
「起きてくれるか? 相棒」